能書きが長いんだよ

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「おっぱじめるのが遅いぞ美代ッ!」  司が叫んで、獣人たちが一気に小倉の手下へ飛びかかった。スズは修一に腕を引っ張られて、司のほうへ思い切り突き飛ばされる。 「うわっ」  スズの体が今度は司に抱きとめられ、慌てて顔を見上げた。 「つ、司も助けに来てくれたの?」 「まあね。だけど説明は後──」  司が言い終わらないうちに、修一がスズの両頬をガッと挟み、ゼロ距離まで顔を近づけられた。 「安全なところで待ってろ」  あ、と思った時には頬から両手が離れ、修一は乱闘の中に飛び込んでいた。小倉の部下たちが体制を立て直そうと飛びかかってくる。修一がその拳を避け、蹴りを入れ、肩から懐へ飛び込んで大の大人を壁に叩きつける。 「ぐっ……てめえっ!」  ドラム缶に埋もれていた小倉がやっと起き上がった。血がダラダラと流れる鼻を片手で押さえながら、持っていたナイフを修一に向けた。  ひゅ、と空を切って襲いかかる刃を修一は俊敏な動作で避けて、怪我をした鼻面へもう一度拳を叩き込み、腹に靴底を容赦無く沈める。よろけた小倉のこめかみに、最後は回し蹴りをぶちこんだ。  勝負は一瞬でついた。もんどり打ってその場に雑巾のごとく倒れた小倉を、修一が睥睨する。 「あれは俺のものだ。二度と汚ねえ手で触るんじゃねえ」  スズの体から力が抜けた。阿鼻叫喚の中、小倉との決着を駆け戻って来た修一がスズを抱き締めた。 「スズ、よかった」 「しゅ……っ……!」  喉が詰まって名前を呼べなかった。  なぜ危険な場所に来てしまったんだろう。どうしてこんなに汚い自分を助けたんだろう。その気持ちばかりがぐるぐると回って、無気力に抱かれているしかない。  同時に遠くからサイレンの音が近づいてきた。修一の背後にいた司が肩を叩く。 「おい、おまわりがくる前にあんたたちは逃げな。ここはあたしがなんとかして──」 「おまえ、こんなにボロボロになって……!」  修一の耳には司の声が全く聞こえないようで、体を潰してしまうほどに腕の力を強め、スズの髪の毛に顔を埋めた。 「ああなんてことだ、本当にすまな──」 「逃げろっつってんだろ、アホが!」  司が修一の尻に容赦無く蹴りを入れて、二人は慌てて倉庫を後にしたのだった。
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