なんでもするから

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なんでもするから

 全てを失ったスズに残された道は、小倉に許しを請うことだけだった。  修一のメイク道具に毒を混入しようと試みたが、本人にバレて失敗した……そういうシナリオをでっち上げるしかない。  生きていくために、もう一度、飼い猫として別の仕事を回してもらうのだ。汚い自分に戻っても、それこそ兄と同じ道を辿ることになっても、変態に売り飛ばされても。  スズは震え上がりながら、小倉のアジトに行った。 「ごめんなさい、修一に手先だってバレて、追い出されちゃった」  ヘラヘラしとした笑みを無理やり貼りつけながらそう報告したスズを待っていたのは、容赦のない暴力と罵声だった。 「この役立たず!」  修一に報復する一世一代のチャンスを逃した小倉は今までにないほど怒り狂い、スズに殴る蹴るを繰り返す。スズは地面に倒れたまま、甘んじて拳を食らうしかない。 「こんな簡単なこともできねえのか、このグズが」 「ご、ごめ、なさ……」 「これだから半畜生は! クソ、このクソがッ!」  殴る蹴るが止むと、小倉はボロ雑巾のようになったスズの前髪を鷲掴みにした。 「こうなったら、てめえその見てくれと体で仕事してもらうしかねえなあ?」 「小倉さん、美代修一はそいつに骨抜きだって話らしいですよ」  未だに鼻のガーゼが取れないツーブロックが、口を差し入れた。 「ほぉ? おびき寄せるくらいのことはできるか?」  小倉はスズの前髪から手を離し、下卑た笑みを浮かべた。 「じゃあ、手始めにあいつの人質として役立ってもらおうかな」  おい、と小倉が部下たちに顎をしゃくる。下っ端たちがスズの両腕を無理やり引っ張った。ズルズルと倉庫の端に引きずられ、後ろ手をガムテープで縛られる。足も同じように封じられた。  手下たちがジリジリと近づいてきて、スズの背筋を虫が這い上がるような感覚がした。 「っ……」 「せいぜい可愛がってもらって、あいつにいい声聞かせてやりな」  怖い。だがそれ以上に、また修一に迷惑がかかるのがいやだ。裏切った挙句、修一をおびき寄せるダシに利用されるのだけは我慢できない。 「や……やめて、オレなんでもするから。修一は、裏切り者のオレなんかいくら痛めつけても来ないよ。だから……それだけはやめてよ」 「なんでもするんだろ?」  小倉はスズから奪ったスマートフォンを操作し、耳に当てた。おそらく修一の番号にかけている。 「やめ……」
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