話、通じてたじゃん!

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 お互いに目が合って、修一の視線がスズの顔から胸、下腹部の反り立った中心へおりた。自分が全裸でいることに気づいたスズは、シーツを慌てて引き寄せて、前を隠す。 「ち、違うんだよ、これは……」 「だ、誰だ!?」 「えっ、オレだよ。どうしたの修一? なんで急に態度を変えるの?」 「どうして俺の名前を知っている!?」  スズには、先ほどからなぜ修一が顔を青くしているのか、皆目見当がつかなかった。 「だって、名前はスマホの通話でたまたま聞いてたから──」  そう弁明してから、スズははたと思い出した。猫だと思っていた存在が獣人の姿を取ると人間はたいそう驚くらしく、幼い頃に母から「人間の前で姿を変えるのはやめろ」と言われていたのだ。  スズはかしこまって、ベッドの上で正座をした。 「お、オレ、あの夜助けていただいた猫ですが……。オレが腹をすかせてた時に、カリカリをくれたでしょ? ほ、ほら!」  スズは修一の疑いを晴らそうと必死で、自分の猫耳や尻尾を突き出した。 「……もしかして、猫獣人?」 「そう!」   やっと話が通じてくれてスズは満面の笑みになったが、修一は再び怒り顔になる。 「獣人なら獣人だって、最初にそう申告しろ!」 「だって、初めて会った時は弱ってたから猫の姿にしかなれなかったんだもん。今の姿になれたのは体力が戻ったおかげ。カリカリを食べるのはいやだったけど、この際文句は言わないし」 「そういうことじゃなくて」 「もしかして修一……オレのことを本当に野良猫だと思ってたの?」  修一は強く頷いた。 「うそでしょ。修一は獣人と動物の見分けがついてたんじゃないの? 話、通じてたじゃん!」 「鳴き声に適当な相槌を打ってただけだ、こっちは!」  修一はハッとして頭を抱える。 「ちょっと待て。俺は獣人相手に恥ずかしいあんなことやこんなことを、べらべらと喋っていたのか……?」 「別に恥ずかしい話じゃなかったよ? 修一はゲイってやつで、高校の時は不良だったってだけだし、あとは頬擦りされたり、本音を聞かせてくれただけ──」 「やめろふざけるなそれ以上一言でもしゃべってみろ!」  首の付け根から真っ赤になり、放っておくとベッドの上でのたうち回りそうな修一の態度に、スズは愕然とする。 (もしかして……修一が今まで優しくしてくれたのって、オレを野良猫だと思っていたから?)  一連の柔らかい態度は、自分自身に向けられたものではなかったかもしれない。そう思うと胸に黒いものが広がった。  小倉の下っ端たちと同じで、修一も怒ったら獣人に殴る蹴るくらいは平気でするかも。いや、殴られるだけならまだいいが、放り出されでもしたら寝る場所を失ってしまう。  スズは震え上がり、修一の腕にすがりついた。 「ご、ごめんなさい……修一、許して」  寄る辺ないスズの視線を受けた修一は、電撃を受けたかのように肩を震わせた。顔をうつむかせると、眉間を指でつまむ。 「そんな表情されたら……」 「えっ、だ、だめ? 許してくれない?」 「とりあえず髪を、乾かさないと。服と、スキンケアも。肌が荒れちまうだろうが……」  修一がブツブツ言いながらベッドから降りようとするので、スズは腕にしがみついた。 「やだっ、通報しないで、追い出さないで、置いてかないで!」 「違う。ちょっと腕を離せ」  低い声に怯んだスズは、恐る恐る腕を離した。
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