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「そうか・・・嬉しいよ・・涙をこらえて話すのって難しいんだな。」父さんも、心に飲み込まれないように言葉にして話す。
「最後に俺の願いを聞いてくれないか?俺の描いたこのまだ未完成なんだ、だけど俺が描けるのはここまでだ。俺の見れた景色はここまでだった。お前の隣に空いてる空白、そこのお前の大切な人を描いてくれ、それでこの絵は完成する。」
「分かった、必ず完成させるよ、二人の最高傑作を。」
「・・頼んだぞ。」
その言葉を最後に僕の意識は現実に戻される。教室は夕暮れが射し込み橙色に染まっていた。まだたくさん話したいことはあったけれど、でも、答えは見つかった。もう逃げる理由もなくなった。
夢で見た父さんの描いた絵、描かれたみんなの表情、背景から構造まですべて覚えた、忘れることはない、今すぐにキャンバスに移したいと思った。すぐに作業に取り掛かろうと美術室の扉を開ける。
美術室には夕暮れに照らされながら一人キャンバスに向かって筆を動かす彩花の姿があった。
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