【完結】脇役令嬢日記~私のことよりメインストーリーを進めてください!~

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 ガゼボの出入口に殿下と男爵令嬢が立っているため、マデリン様は勝手に辞去することが出来ないままだった。 「この婚約が破棄されてしまえば君は傷者になってしまう。それは元婚約者として……いや、幼馴染として耐えがたい。君に非はないのだから」 「どの口が言ってるんだか」  アル様は怒りの形相でぼそりと呟いた。落ち着いてください、いいところなんですから!落ち着くようにアル様の手の甲を撫でると黒いオーラは静まり、なぜかうるうると瞳を揺らしこちらを見た。もしかしたらアル様は悪魔に乗っ取られる系の主人公なのかもしれない。かわいそうに。左手が疼いたら包帯を巻いてあげよう。 「そうだ!エド様っ。わたし、とーっても良いことを思いつきました!第二王子のアルフレッド様はそろそろご婚約が解消されるともっぱらの噂です!」 「あぁ、名案だな!そうだ、アルフレッドと婚約すれば引き続き私の公務の手伝いが出来るな!よかったなマデリン」  嬉しいだろう?とでも言いたげな二人に驚けばいいのか、急に名前の出てきたアル様のご指名に驚けばいいのか、視線は行ったり来たりとせわしない。  アル様はさすが主役級なだけあって、急なご指名にも関わらず驚いた様子はなく静かに前を向いている。まるでこうなることがわかっていたかのように。  マデリン様とアル様が、ご婚約……。 「アル様の左手に包帯を巻くのは、私じゃないみたいですね……」 「うん?怪我なんてしてないけど、好きなだけ巻いて」  私はいつも影からマデリン様たちを見てきた。そういえば最初はアル様の姿もこうして影から見てきた。楽しそうに笑う様子、何かトラブルに遭遇しても機転を利かせ切り抜く雄姿、人知れず努力を重ねる姿を。  寄り添う二人を、私はいつも通り見ていられるだろうか。  アル様のいつもの穏やかな微笑みが歪んで見えない。  見ていたくない。
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