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昔は、猫やキツネにも変身できる者はいたらしい。
しかし猫の多くは人間と暮らすのに慣れ切ってしまい――というか飼いネコとしてゴロゴロしている方が楽だと気づいてしまって変身する必要性がなくなり、いつの間にかその能力を喪失。逆にキツネは人間と関わらない方が安全だと判断して基本的に町に出なくなったため、野生のまま暮らし続け能力を徐々に失ってしまったと聞いている。
それに対してたぬきは開発で住む場所が減っていることと自分達の魔法に誇りをもっていることなどから、今でも人間に化けて“留学”し“人間社会に卒業”する文化が根強く残っているのだ。僕とポン吉は、人間でいうところの小学校六年生。小学校卒業には、最初の壁がある。つまり、留学である程度良い成績を残さなければ留年になってしまうのだ。
そう、たぬきの学校は小学生でも留年がある。厳しい世界なのである。
「ちえ!なんだよ先生。俺の変身を馬鹿にしやがってよ!俺が食べ物に変身するのが苦手なの知ってるくせによ!」
休み時間。ポン吉はぶうぶうと文句を垂れている。まあまあ、と僕は彼の背中を撫でた。笑いものにされて悔しい気持ちもわかる。だが、そろそろ彼は焦らなければいけない時期にきているはずだ。
食べ物に変身するのは苦手だと彼は言う。その理由は、食べ物だと喰われるのが怖いから、とのこと。だが、彼が一番変身するのが苦手なものは。
「気持ちはわかるけど、そんなこと言ってる場合じゃないよ。ポン吉、このままだと君、本当に留年しかねないぞ?」
僕と彼は、一緒の班だ。留学の際は共に行動することになる。正直なところ、彼が変なものに変身すると僕も結構困ったことになってしまうのだ。何故ならば。
「校長先生が言っていたことは、脅しでもなんでもない。へんてこなものに化けてみろ、あっという間にSNSで拡散されて、国中に写真ばらまかれて大変なことになるんだ。シッポの生えた豆腐なんて、大バズりもいいところだぜ?」
「ふう助……お前、ほんと人間の文化に詳しいんだな。え、なに?おおばずり?」
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