たぬきさんの変身教室

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「SNSで呟きがみんなに注目されて、いいねがたくさんつくこと!……僕の伯父さんは、先日帰郷した“フカ太郎”さんだぜ?人間の社会の最新情報はいくらでも聞いてる。……ポン吉も、フカ太郎伯父さんの完璧な変身は見ただろ?」 「まあ、すごかったけど……」  フカ太郎伯父さんは、実にイケてるダンディな人間の男性に変身していた。白いスーツに灰色の髭、ステッキが似合う“英国紳士”といったたたずまいである。――なんでこの国の人間じゃなくて、地球の裏側の人間に変身してるのかについては結構謎だけども。まあそれはそれ、伯父さんの趣味なのだろう。 「……俺だって、人間に変身できないわけじゃない。でも、俺……どうせ変身するなら、変身して楽しそうなものになりたいんだ」  ちらり、と彼は教室の方を振り返る。そこには、人間が捨てたテレビとDVDデッキが設置されている。一般の放送は映らないが、拾ってきた何枚かのDVDなら再生できるというものだ。たぬきの子供達が人間について学ぶための重要な教材になっている。  他にも伯父さんのような人が持ってくる本や、人間が捨てていく新聞や雑誌などが重要な資料だ。彼らは、まさか自分達のゴミがたぬきに再利用されているなどとは思ってもみないことだろう。 「でも、今の人間たちってさ。みんな、ちっとも楽しそうじゃないじゃないか。映像でも見たぞ。ニュースの録画だったっぽいけどあれ……あの映像に出て来た人間たち、みんな暗い顔しちゃってさ。俯いててさ。ちっとも楽しそうじゃない。雑誌の写真の人達もそうだった。人間って、全然楽しくないんじゃねえのかって思うんだよ」 「それは……」 「俺はずっとこの森にいたい。留年したっていい。人間になんかなりたくねえ。どうしても俺に変身能力を鍛えてほしいってなら、楽しそうな顔をした人間を見つけてきてくれよ」  僕は、何も言えなくなってしまった。ポン吉が言うことも、一理あると思ってしまったがゆえに。
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