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秋口に入った街は、青い夕闇に包まれつつあった。
オレは泊まりこみの仕事を終え、汗まみれで、すっかりくたびれきっていた。
最寄り駅のホームで、重くだるい身体をまといながら電車が滑り来るのを待った。
そばで聞き覚えのある、鼻にかかった中年女の甘い声がした。
「槙村君!」
オレはその方を見ないで、聞こえないふりをした。
「槙村君でしょ?」
もう一度耳許で呼ばれる。
さすがに対応せざるを得ない。
「人違いだ」
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