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彼女は相変わらずよくわからない少女だ。が、これでも去年の春に初めて会った頃よりは、その言動にある程度の予測がつくようになった。彼女の突然の脱走や涙や癇癪に付き合ってきた一年を思うと、自然と溜め息が漏れる。
ぬいぐるみが溢れる寝台から、思わず漏れたような笑みが聞こえた。
「よかった」
そう言って、シーツの上に両手をつく。竦めた肩の脇から深い夜色の瞳が、きょろりとサイマンに向けられた。
――イフェニスとは業務上のパートナーとでも一応言っておこうか。ベルントリクスの鬼才、グノーズ・オーカーである。彼は絹糸のような髪を弄りながら、イフェニスのお絵描きを見守っているところであった。
「何が?」
「イフェニスが懐いてくれて。サイマンなら大丈夫って思ってたけど」
「懐くって……犬猫か」
声を上げて可笑しそうに笑い、グノーズは寝台からひょいと腰を上げた。両腕をめいっぱい天井に向かって伸ばし、伸びをする。丈の短いシャツが彼の身動きに合わせて引き攣れる。
「変わんねって。な、イフェニスー?」
「サイマンどこ住んでるの?」
「ほら聞いてないし」
な? と、グノーズは手でイフェニスを指し示しながらもサイマンのほうを見る。画布に正面から向かっているあいだ周囲のことなど意に介さないイフェニスは、自分が話題にされていたことにも気づかなかった。
「どこって……今?」
サイマンは、組んでいた腕から外した左手で後ろ髪を弄った。左右で微かに異なる色をした双眸を引き寄せて、視線でグノーズを指す。
「こいつん家」
「グノーズの? どうりで揃って来ると思った」
「そういうとこは気づくんだな……」
注意力がいいやら悪いやらだと小首を傾げるサイマンに、グノーズは笑顔を返した。
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