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幸いなことに、襲われたアーロンは無事だ。
彼は切り傷や擦り傷を負った後、半日程度の間、意識を失い倒れていたが、検査の結果、脳にダメージを受けたようでもなく、傷も生活に支障がでる程ではなかった。
一方、襲い掛かった女、つまり動画の女は気の毒なことであるが、アーロンの反撃により死亡した。
警察が部屋についたとき、部屋には出血しすっかり冷たくなった女が倒れていた。
そしてその横に渋谷アーロンが憔悴した姿で座っていた。
それは殺害があってから半日以上が経っていたころだった。
「必死だったから、何が起こったのかあまり覚えていないんだ。襲い掛かられつかみ合いになって、俺は倒れてそのまま意識を……。目が覚めたら足元に彼女が倒れていて……びっくりして警察に連絡を」
渋谷アーロンは女に襲われたが、亡くなったのは襲ったほうだった。
致命傷となったのは胸に刺さった包丁。
つかみ合いの結果、女の胸に包丁が刺さった。
アーロンの指紋が包丁に残っていたことから、どうやら包丁を奪い取り反撃した際にそうなったというのが鑑識の分析である。
ただし、正当防衛、というのが渋谷アーロンと弁護人の主張だ。
鹿沼が手掛けている裁判は、正当防衛を認めるか、判断しようとしているものだった。
「正当防衛にしか思えませんよね」
裁判が始まってすぐに、裁判員の一人が言った。
「お気持ちは理解できますよ。ただ裁判というのは、証拠が重要です。証拠を確認して、判断をするのです」
そう言った鹿沼も当初は心の中であまり争点のない裁判だと思っていたし、証拠動画を目にした時には、一日でも早く正当防衛を認め、自由を奪われている渋谷アーロンを解放すべきであると思っていた。
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