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判決の言い渡し時刻として15時30分と被告人や検察に伝えていた。 真里が冷淡な視線を鹿沼に送っている。 心の中では「おっさんさっさとしろよ」くらいの毒舌を履いているに違いない。 鹿沼はため息が出そうになるのを抑えた。 真理を含め、若い裁判官の鹿沼への態度は悪い。 もちろん、極めて堅く保守的な職場である裁判所において、通常であればいち裁判官が裁判長にそんな態度は示さない。 裁判長を担うのは上役であることが通例であり、となれば職場を同じにする裁判官としては、表敬と自らの保身のために、意見は述べても下手な態度はとらないものだ。 なのに真里が不遜であるのは、鹿沼が舐められているからに違いがなかった。 鹿沼はその事実に不平があったが、心の奥にしまう。 法廷では被告人も弁護士も検察も自分たちを待っている訳で、真里をとがめるにもなだめるにも時間がなかった。 鹿沼は額の汗を手で拭う。 緊張が高まっている。 日ごろの仕事でそうも緊張したことは記憶にないくらいだ。 そのくらい、判決を言い渡す直前で、すべてを覆すような発言を裁判長が言い出すことは異例なのだった。
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