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しかもAIによることだなんて、あまりに現実離れしていて、法廷で真面目に口に出すのがかなり憚られるのだ。
それでも鹿沼は真里が何度も掛け時計に視線をやる態度に耐えきれず、覚悟を決めた。
「私は、この映像がディープフェイクではないだろうかと疑っています。つまり証拠動画は偽造されたものかもしれない」
「ディープフェイク?」
すかさず真里が尋ねた。
「AIが作り出した動画のことだ。まるで実物の人間が話したりしているようにAIで動画や音声を作り出してしまう」
鹿沼は真里にたどたどしくも妙に高い声で言うと、その後裁判員たちを見まわした。
「つまり、我々の目の前の証拠が、AIが作り出した映像なのではないかということ。私はそこに疑念を感じていて、判決を下すことはまだできないのではないかと考えている」
鹿沼は続けた。
言ってしまった。
顔色は変わっていなかったかもしれないが、心は全く穏やかではない。
顔が熱くなる。
手が震えるのをもう片方の手でさりげなく押さえる。
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