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「この証拠動画がAIによるものだと?」
裁判員の一人、高齢の男性が信じられないという声をあげた。
「ええ。そうです。にわかには判断できないとは思いますが」
「この、今から殺しに行くと脅迫している様子が偽物だと仰るのですか? 田原亜美が極めてはっきりと映っている映像が嘘だと?」
「はい」
「まったく偽物なんてふうには見えない」
高齢の裁判員は困惑した表情を見せていた。
それはそうだろう。AIなんて一部の新しいもの好きのマニアが騒いでいるだけで、一般の者たちからすれば、テレビCMなんかに登場する少々賢い白物家電に搭載されている以外は、お伽話の中の話題でしかない。
いずれにしてもAIが、最も古めかしい裁判の場に、しかも判決を下すのに極めて重要な要素として登場するような話題ではないのは確実だ。
「裁判長がそう仰るにはもちろん根拠がおありなんでしょう」
真里が言葉を挟んだ。先ほどよりもさらにとげとげしい言い方になっていた。
「根拠がおありなのだとして、判決はどうされるのです? 証拠に疑義があると伺いましたが、となればまさか裁判長が、独断で、結果を覆すおつもりだと?」
真里はさらに続けた。
やはりそうきたか。
鹿沼は想像していた反発だと思った。
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