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…ガラス細工。
それが、君の第一印象やった。
脆そうで儚げで、触れる事すら躊躇った。
せやけど、
子供相手に無邪気に笑う君を見た時、自然と思えた。
−−−触れたい。
と。
そこからはもう、必死やった。
必死に君を追いかけて、追いかけて、
時には壊してしまうかもしれへんと言う不安に駆られながらも、
ワシは、君への愛を育んでいった。
勿論、君がワシをそう言う目ェで見てない事も、理解しとった。
せやけど、君への愛は募るばかりで、
嫌やと言われても、触れたくて、触れたくて、
何度も好きやと言って、ようやっと受け入れてもらえた時は、ホンマに舞い上がるくらい、幸せやった。
君のその脆弱な身体と心についた古傷も、知らんとな。
顔も知らん男が君につけた醜い傷跡。
そのせいで、君は愛される事に極端に怯え、私なんかが口癖で、よう泣いてたな。
せやけど、そんなんぶっちゃけどうでもよかった。
寧ろ、そない辛い事があったにも関わらず、よう今まで、自分の身体を傷つける事なく、捻くれる事なく、君を素直なままでいさせてくれた神さんに、おおきにと言いたかった。
そんなこんなで、まあ…すったもんだはあったけど、ワシは君を、君はワシを伴侶に選び、歩んでいく約束をした。
最初は、晩婚やし、2人だけで密やかに生きていければ満足やったけど、人間言うんは欲が深いもんで、授かれるなら、ワシは君にワシの子を産んで欲しいと、密かに思うようになった。
不思議なもので、新婚旅行の道後で君が子供を欲してる事を知った時は、これが夫婦言うもんかなと、目ぇに見えん絆言うモンを信じて一人笑ろたんは、墓場までの秘密。
そうして、やっぱり色々あって、君がワシ…いや、俺を受け入れてくれた夜は、その後のどの営みよりも、甘くて切なくて、幸せやった。
脆そうで儚げで、触れる事すら躊躇った小さな身体が、俺を求めて赤く染まっていく様が、堪らなく愛おしくて、愛おしくて…
か細い声で俺を呼んでくれる、求めてくれていると思うと、胸が高鳴って、息をするのも辛かったけど、応えるように抱きしめて、果てるまで愛し合った…
それからいくつも季節が巡り、春の始まりに男の子。冬の終わりに女の子を授かり、俺たちは「家族」になった。
脆そうで儚げだった君は、強くしなやかな賢母になったけど、俺は知ってる。
雪の降るクリスマスイブ。伏見のラブホで見せた、君の本性。
ベッドの上で傲慢と強欲を余す事なく露わにし、俺を貪り求める、娼婦の顔。
育てたんわ俺やけど、まんまと逆に喰われて堕落させられた、かの文豪谷崎も真っ青になるかは知らんけど、立派な俺のナヲミが完成したあの聖夜は、生涯忘れへん…
--なあ、絢音。
俺の、俺だけの、可愛い絢音。
こんな事、愚問やて嗤うかもしれへんけど、聞いてエエか?
俺と…いや、僕と結婚して、
君は今、
幸せですか?
…なんて、しょうもないガキみたいなセリフ、恥ずかしいし、そうでもないと言われてショック受けるんも嫌やし、こんな女にしたのは誰と罵られるのも勘弁やから、聞かんでおくわ。
まあ、ワシ阿呆やから、すーぐ顔に出るし、きっとなにもかも、バレバレなんやろうけどな。
…はあ。
ホンマ、ありきたりやけど、最期に言わせて。
ワシ、めちゃくちゃ幸せやったえ。
おおきに。
せやから、後追いの約束なんか反故にして、
一日でも長う、生きてや。
ワシの、ホンマにホンマに、最期のわがまんまや。
生きろ。
誰よりも愛おしい、
何よりも大切な、
ワシの、ワシだけの、
女神はん…
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