拾仇

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写真と手紙をもって、知り合いから聞いていた住所へと足を運ぶ。 「これはこれは、また恐ろしいものに取り憑かれましたな」 経緯を説明しながら、写真を見せると祓い屋・灰塚元菊は険しい顔を浮かべて写真を眺めた。 「ん……?あぁ、なるほど。この写真はそういう事か」 しばらく写真を眺めていた元菊はふと何かに気付いたのか、周囲を見回して窓の外に視線を止めた。 少しの間のあと、写真を封筒に戻すと合点がいったように一つ頷いてみせた。 「まぁ、一応はこれであなたは大丈夫でしょう」 「え?大丈夫というのは?」 「写真ですよ」 写真の入った封筒を手にしながら、元菊は窓の外へと視線を向ける。何かが見えているのか、その視線はぶれることなく一点を捉えていた。 「上手いこと写真に収めたことで、何の力が働いたのか知りませんが、写真の中に怨念が封じ込められてしまったようです」 「えっ!?この中にいるんですか?」 「強い怨念ですね。会長、何か人から恨みでも買いましたか?」 「恨みですか。そんなもの、あちこちから買ってますよ」 会長は思い当たることがあるというより、それしかないようなセリフを吐き捨てた。 どうやら、会長は今の位置に着くまでに色々なことに手を出してきたようだ。 中には限りなく黒に近いグレーなこともあるようだった。 「ふふ……そうですか。まぁ、人間生きていれば少なからず人から恨みを買うこともありますよ。特に、重責を背わされた人ほど、簡単にお天道様の下に出ることも難しくなってくる。でもそれは、守るべきものがある者なら仕方のないことですよ。だから、そんなに自分を責めるのはやめてください」 「……はい」 心中お察ししますよ、と気遣うように微笑む元菊に会長は不思議と安心感を感じて肩の力が抜けてしまった。 確かに色んなことに手を出してきた。人にはおいそれと簡単には言えないこともたくさんしてきた。それこそ、墓場まで持っていくような話もある。 恨みを買うこともしばしばあったが、それもこれも全て自分の会社と従業員、そしてその家族たちを守るためにやってきたことだ。 それがトップとして当たり前であるように、自分に言い聞かせてここまでやってきたが、心のどこかでは後悔の念があったのかもしれない。 『仕方のないことですよ』と『自分を責めるのはやめてください』と言われて、心のしこりが取れた気がして思わず涙が零れそうになっていた。
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