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「そうねぇ……」
ちらりと扉を見ると少し考える素振りを見せた望桃は「いい機会かしら」と一つ頷き、賢治を好きになった理由を語り始めた。
「いつから好きになったか、という問いには出会った瞬間と言ってもいいかもしれないわね」
『一目惚れってこと?』
「そうね。それで間違いないと思うわ。ただ、より強く意識し始めたのはやっぱりあの事件がきっかけでしょう」
『事件?』
「ええ。小さい頃の話よ」
灰塚望桃が小学生の頃の話。
当時は引っ込み思案で人の前に出ることなどできず、いつもオドオドとした態度で人々に接していた。
「今思い返しても当時は本当に臆病だったの。何がそんなに怖いのかってくらい、物音がちょっとするだけでガタガタ震えるくらい怖がりさんだったのよ?」
『祓い屋してるお姉さんが?全然想像つかないや』
「ふふ……!そうでしょう?周りの大人たちからもすごく心配されてたわ」
あまりに気弱なものだから、灰塚の跡取りとして大丈夫かと多くの大人たちが心配して訪れるほどだった。
中には気弱な性格の望桃に取り入って良いように利用してやろうとする邪なことを思う害虫のようなやつもいたがそれらは漏れなく“当主の灰塚元菊”によって駆除された。
『(こわ……)』
「そんな私にも仲良くしてくれた人たちがいた。それが賢治なの」
賢治の祖父と望桃の祖父は小学校からの幼なじみ。
いや、悪友といってもいい。
この小さな町で多くの伝説を残す二人は、年老いてからも大の親友だった。
その繋がりで知り合ったのが、賢治と望桃だった。
生明爺『孫の望桃だ。賢治くんとは同い年だね。よろしくね、賢治くん』
治爺『賢治、仲良くするんだぞ。きっとお前の唯一無二の友になってくれるだろう』
『ももちゃん?そっか!かわいい名前だね!僕は賢治!よろしくね!何して遊ぼうか!』
『え、えっと……』
『鬼ごっこ?隠れんぼ?色鬼?縄跳びもいいね!』
『えっと……』
『いいや!全部やろう!最初は隠れんぼ!僕が鬼ね!行くよー!いーち!にー!あ、二十で探すからね!』
『えっ!?えー……?』
こんな感じで、あっという間に二人は仲良くなった。
やがて、友達になったという瀬田や真木という女の子も加えて皆で遊ぶことが増えていった。
『強引だねー。お兄さんらしいや』
「本当に……。でも、そんな彼だから私もあっという間に打ち解けられたの。人と関わることの楽しさを教えてくれたのは間違いなく彼よ。彼との出会いがなければ、私は今でも人と繋がることを怖がっていたと思うの」
感謝してもしきれないと望桃は頷くと、扉の向こうにいるだろう彼に向けて小さく微笑みを浮かべた。
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