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「だけど、そんな関係も長くは続かなかった……。あの“事件”があったから」
『事件……か。今更だけど聞いていい内容なの?』
「この事件が〈 祓い屋 〉を継ぐことを決めたきっかけでもあるの。そして、私が私になった根源でもある」
『“私になった根源”?どういうこと?』
「“甘さを捨て非情に徹する修羅となる”決心をした、ということよ」
『お、おぉ……?』
大きく深呼吸をしてを整えるとゆっくりと事件について語り始めた。
これは灰塚望桃の成り立ちの話。
灰塚望桃が祓い屋になることを誓った始まりの話だ。
ーーー
ーー
ー
耳をつんざく蝉の大合唱。茹だるような暑さの中で、子供たちは暑さもまた遊び友達と言わんばかりに元気に外を駆け回っていた。
ある夏の日の出来事である。
灰塚望桃は賢治に連れられいつものように、近くの公園で遊んでいた。
その時は鬼ごっこや隠れんぼなど、近所の子たちを交えて子供らしい遊びに興じていた。
その隠れんぼの最中、入口近くの茂みに隠れていた望桃は犬の唸るように低い声に話しかけられた。
「おい、お前。なんで、ここで遊んでんだ?」
「えっ……?」
見ると、公園の入口に立った六年生の集団が睨むように望桃を見下ろしている。
「オバケ女!お前がいるとオバケが寄ってくるだろ!ここから出てけよ!」
「きゃっ!い、痛い!や、やめて!離して!」
一回り大きい男子が声を荒らげて肩を掴んでくる。
そのまま地面に引き倒されると髪を掴まれグイグイと公園の外へと追い出そうとし始めた。
突然の痛みと大きな声に恐怖で固まってしまった望桃は必死に抵抗するが、やがて抵抗する素振りが気に食わなかったのか、ガキ大将は周りの男子をけしかけて取り押さえさせた。
「痛い目みないと分からないか?ここは俺らの遊び場なんだ。お前たちみたいなヤツが来るとこじゃないんだよ」
「そ、そんな……だってここはみんなの公園で」
「俺たちのだっていってるだろ!」
「ひっ!?」
バンッ!と手に持っていたサッカーボールを地面に投げつける。ボールは地面に跳ね返って、望桃の頭を掠めていった。
たまたま当たらなかったから良かったものの、当たれば大変なことになっていたかもしれない。
そんなことはガキ大将には関係がなかったのか、さらに捲し立てるように望桃に詰め寄る。
「お前、ムカつくなぁ……」
「っ……うぅ……」
眼光鋭く睨みつけて威圧してくる一回り大きい男子。小さい体の望桃にはそれだけで、震えるほど恐ろしく、その目から涙がポロポロと零れ落ちた。
そんな時だった。
「お前えぇー!望桃に何してんだよ!やめろ!離れろ!あっち行け!」
「賢治くん……!」
望桃とガキ大将の間に身を滑らせるように、賢治が入ってくると望桃を押さえていた集団を手を振り回して追い払ってみせた。
そのまま後ろでに望桃を庇うと、歯を剥き出しにしてガキ大将を睨みつける。
「おおばやしぃぃ……!お前、上級生に刃向かってんじゃねぇぞっ!」
「望桃、みんなと逃げて。ここは何とかするから」
「賢治くん!?」
「“大丈夫”。大丈夫だよ」
「賢治……くん……」
そっと背中を押して送り出すと賢治は振り返る。
ガキ大将は反抗的な態度を許すつもりは一切ないのか、周りの連中と共に賢治を取り囲み殴る蹴るの暴力を始めた。
このままでは、自分を庇ったばかりに賢治が怪我をしてしまう。混乱するばかりの頭で望桃は必死に何か手はないかと考えるが、恐怖と焦りで何も思い浮かばない。
「おおばやしぃ!お前生意気なんだよ!」
「上級生なら上級生らしいとこ見せろよ!皆で仲良くできないのかよ!バカが!」
その間も賢治は暴行を受けながらも必死に食らいついていた。
「っ!ど、どうしたら……」
「大人の人を呼んで来ようよ!」
「そ、そうだ!賢治くんのお家が近い!お父さんたちを呼びに行こう」
誰かの声が木霊する。望桃はその声に弾かれるように、公園から飛び出した。
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