216人が本棚に入れています
本棚に追加
公園には賢治と祐奈が倒れていた。
二人とも青あざが顔にあり、特に酷かったのは賢治の方ではなく祐奈の方だった。
恐らく賢治たちの間に入って、上級生たちに酷い暴行を受けてしまったのだろう。
女の子に対して、なんて酷いことをするのだ。
「賢治!祐奈ちゃん!」
皆で駆け寄り、容態を確認する。
幸いなことに二人とも息はしていた。
「ヒュー……ヒュー……」
……が、とても大丈夫とは言えない状態だ。
「祐奈ちゃんの方は呼吸が弱い。すぐに病院に連れていかないと」
「こんなになるまで殴るなんて……っ!いくら子供の喧嘩でもやりすぎよ!」
あまりに酷い状態に怒りが込み上げたのだろう、賢治のお母さんはいつもの優しい表情は消え去っていた。
慌てて倒れた二人を運ぼうとすると両親の横を望桃は一人で呆然と見つめていた。
「賢治くん……祐奈ちゃん……」
ところどころ打ち身ができた顔。切れた唇。
だらりと力なく投げ出された四肢。
まるで遊びくたびれた人形のように打ち捨てられた二人を見て、望桃の頭は真っ白になった。
なんで、どうして。優しい二人がこんな目に会わなきゃならないのか。
二人はただ、弱い者の味方をしただけじゃないか。
友達を助けようとしただけじゃないか。
それなのに、こんなにボロボロになるまで傷付けられて、命すらも危険に晒されて。
なのに“あいつら”は、ここから逃げるように姿を消したあいつらは、明日もきっと普通に生きている。
これだけのことをしておきながら、平然と日常を過ごすのだろう。
そんなの……許せない……ゆるせない……ユルサナイ……!!
「大切な私の友達を傷付けておいて、今まで通り何も無かったように生きていくなんてさせない……!」
ギリリ!と奥歯を噛み締め、拳を握りしめて望桃は置いてけぼりにはされたサッカーボールを睨みつけた。
(でも……私が本当に許せないのは“私自身”だ。私がもっと強ければ、あんなヤツらの好きにさせることなんかなかったのに!)
「強くなりたい……賢治くんたちを……私の大切な人たちを守るために……」
握りこんだ拳から血の気は引いていた。それでもその胸には今まで感じたことがないほどの熱い感情が芽生えたのだ。
賢治たちのためならどんな事でも耐えられる。そう思えるほどに。
「お父さま、お爺さま!私、賢治くんたちを護りたい!強くなる方法を教えて!」
「望桃……」
「ふっ……。目の色が変わったな。“お気に入り”を見つけたか……」
「そうか、わかった。これから、想像以上のつらい思いをすることになるだろう。だが、それは全てお前の大切なものを護るためだ。心して修行に励むように」
「はいっ!」
それから、望桃は小学生ながらに血の滲むような努力をし続けた。厳しい修行で霊力を磨き、体力をつけ強い身体を手にして、頭脳を鍛え成績を上げ続けた。
灰塚家としての立ち振る舞いは、人の心を掴み操る力に繋がった。
その力で一気に学校内で味方を増やし、手足となる存在を増やしていくことであっという間に学校を裏で牛耳ってしまった。それは、小学生から始まり中学校、そして現在まで続いている。
「さぁ、これで賢治を守る力は手に入れたわ。あなたには誰も手出しさせない。あなたのやることに口出しもさせないわ。あなたの平穏は私が守ってみせる。あなたの願いはすべて私が叶えてあげる。あなたは私に光をくれた人だから」
全ては光を示してくれた大切な友人たちを護るために。望桃は闇にその身を染めて修羅となったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!