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「……そうして私は今も祓い屋として多くの人たちと繋がりを持ち、いつでも何かしらに巻き込まれる賢治の助けになれるように“手札”を揃えているのよ」
『想像の遙か上をいってたよ……』
人形の髪に手櫛をいれながら、望桃は小さく息を吐くと話に一旦の区切りをつけた。
話を聞き終えたノアは呆けたように空を眺めてため息を吐いた。
『一目惚れしたお兄さんは本当に優しくて、一緒にいるうちにもっと好きになって、それなのに世界はそんなお兄さんに厳しくて。お兄さんを守るためにお姉さんは努力して、今の完璧超人になったんだねー』
「完璧超人なんておこがましいわ。私は普通より頭が良くて運動ができて、顔が良いだけの女よ」
シレッと自分はイイオンナですよ?とアピールしながら、チラリと未だに閉じられたままの扉を見る。
「ははっ……自分で言うなし」
しかし、その向こうでは確かに賢治の苦笑する声が聞こえた。
「そろそろ入ってきたら?話しすぎて喉が渇いちゃったわ」
「あぁ、ごめんごめん」
ちょうど話も一区切りしたところなので声をかけると、賢治が立ち聞きしてしまったことを詫びながら入ってくる。
望桃は初めから居ることは気付いていた上で話したことなので怒ってもないことを伝えると、身を乗り出して賢治の目を見つめた。
「それで?話を聞いてどうかしら?少しは私のこと見直してくれたかしら?」
「ん?はは……!灰塚のことは誤解が解けてからずっと見直してるよ。誤解もあったけど、今も昔も僕の大切な友達さ」
「そう……」
飲み物を差し出しながら「過去の話を聞いても大して気持ちに変化はない」と言い切ると、賢治はその場に腰を下ろして笑う。
その笑顔に安堵して望桃は飲み物に口をつける。
『そこは少しは惚れ直してもいいとこだと思うよ?』
「灰塚が素敵なのは随分前から知ってることさ。その上で、気持ちに変化はないってこと」
「それって……すでに好感度マックスだったということね!籍入れましょう!今すぐ!“大林望桃”になる準備はできてるわ!」
賢治の言葉を聞いて感激した望桃は、鞄から〈 記入済みの婚姻届 〉を取り出すと机に叩きつけるように置いた。
「そういうところがなー」
『そういうところだよねー』
「ぐすん……」
賢治とノアは飲み物に口をつけて小さく苦笑を浮かべると、叩きつけられた〈 婚姻届 〉を丁寧に折り畳み望桃へと差し出すのだった。
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