十捌

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『こっちこっち』 「随分、遠くに来たわね」 「だね。このまま町の外に出たりしちゃうかもよ?」 「ふふ……愛の逃避行ね」 「悪霊同伴は遠慮したいなー……」 ノアの案内で家の外へと皆で飛び出す。部屋の前に立ち塞がっていると聞いていた悪霊だが、やはり賢治の眼には映らなかった。 「それにしても、この眼に映らない霊がいるなんて驚いたよ」 「他の霊能力者が霊が視えてしまうことを“チャンネルが合う”ってよく言うでしょ?きっと、この悪霊はチャンネルを意図的に変えられるのよ。呪いたい対象を無理やり自分のチャンネルに誘うの。そのための媒体となるがこの写真なのよ」 封筒が入った鞄を示して、望桃は答えた。望桃たちは家を出てからしばらく、ノアの示すままに町を歩いていく。 ノアの目にどんなものが見えているのか気になった賢治が聞いてみると、何やら手紙から光の糸のようなものが伸びてそれがずっと続いているようだった。 「〈 霊子線(れいしせん) 〉……かしら」 「れいしせん?何それ」 「魂と肉体を繋ぐ線よ。これが切れたら人は死ぬと言われているわ」 「え?てことは、魂はこの手紙に入っていて肉体は別のところにあるってこと?」 「ふふ……!違うわよ。魂も肉体もちゃんと別のところにあるわ。そうねぇ……分かりやすく言えば、この手紙は“筆先に魂を乗せて書かれたもの”ということよ。心を込めた強い願いは魂の欠片のようなものが宿るのよ」 「それだけ恨まれてるってこと?」 「写真と手紙は同一のものじゃないわ。手紙の内容は確実に助けを求める内容だった。心から救いを求めて書かれた文章ということよ」 「なのに、住所どころか差出人の名前すらもないの?おかしくない?」 傍から見ればおかしな話だ。助けて欲しいと懇願しながらも肝心の助ける対象の情報が何も記載されていないなんておかしいにも程がある。 「……憶測でものを言うのは良くないけど、その点については答えは昨日の時点で出ていたわ」 「そうなの?」 望桃は小さく笑みを零すと、一軒の家を指差した。 ノアも望桃の示した先に気付いたようで『うん、そうだよ。その家だ』と賢治の腕の中で頷くのだった。
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