十捌

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表札を確認し、大きな和風の門に設置された呼び鈴を何の躊躇いもなく鳴らす。 すぐにスピーカーから応える声が聞こえた。 「はい……」 若い女性の声だ。 「祓い屋の灰塚です。ご依頼の件でお伺いしました」 しばしの沈黙。 何かを確認しているのか一分ほどしてスピーカーの向こうから「お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」と女性が応える。 灰塚は慣れた様子で門をくぐると、背後で立ち止まったままの賢治を手招いた。 「どうしたの?行きましょう?」 「え……?あ、僕らも入っていいの?」 「もちろんよ。むしろ、あなたにいてもらわなきゃ、この件は解決できないわ」 「そ、そうなの?」 「えぇ」 望桃に手を引かれ、中へと連れられた賢治は中を見てまた足を止める。 想像通り、純和風のお屋敷だ。門から屋敷まで続く飛び石から横目に見える中庭も相当広く手入れも行き届いていた。 大きな池には鯉がいるのか、水の跳ねる音が時折響いている。 とどうやら、この家の家主は相当なお金持ちらしい。 慣れた様子の望桃の横で、賢治はガチガチに緊張した様子だった。あまりに緊張したのか、ノアを抱き抱える手に力が入りすぎて『ぐえぇ~~』と潰れたカエルのような声が腕の中から聞こえた。 「賢治?」 「よくこんな家で普通にしてられるね……」 「土建屋さんのお家ってだいたいこんな感じよ?」 「なるほど通りであちこちにこだわりが見られるわけだ」 「今は息子さんに会社を譲られて引退されてるけどね。確か会長になったんじゃなかったかしら」 「かいちょー……」 祖父の代からの付き合いよ、とまたノアを締め潰してしまいそうになる賢治の手を取って望桃は飛び石を渡っていく。 「ふふ!飛び石って、なんだか楽しいわよね」 「はは、たしかに……」 少し楽しそうに弾むような足取りの望桃に、どこか子供の頃の姿を思い出した賢治はようやく緊張が解けるのだった。
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