十捌

5/7

123人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
玄関を入ってすぐに中から、メガネをかけた二十代の女性が出迎えた。賢治の視線に気付くと少しおどおどとしていて落ちつかない様子だった。 少し挙動不審とも取れる女性の態度が気になったが、望桃はいつもの事だからと特に気にとめた様子もなく案内されるままに玄関にあがった。 「こちらで待ちください……。すぐに父が来ますから」 「分かりました」 そのまま、応接間へと通されると少し待つように言い渡された。応接間にも高価そうなものが並んでいる。 「今のって、家の人?なんか、様子がおかしくなかった?」 「会長さんの末の娘さんよ。お兄さんとお姉さんが気が強くて、逆に引っ込み思案な性格になったみたいね」 「上が強いと下の子はそうなるか……」 「まぁ、必ずしもそうなるとはいえないけど。このご家庭の場合はそうなったみたいね」 しばらく椅子に腰掛けて、中庭を眺めながら待つことにした。庭では犬が楽しげに駆け回っている。 これだけ広いなら、犬もストレスなく遊べそうだなーなどと話していると、擦るような足音が廊下から響いた。 やがて現れたのは七十代くらいの白髪の男性だった。口髭を生やし、縁のある眼鏡の向こうで望桃たちを確認すると椅子へと腰を下ろした。 「久しぶりだな、灰塚くん」 「ご無沙汰してます。その後体調は如何ですか?」 「あぁ。多少の痺れは残っているが、何とか日常生活は支障なく送れているよ」 「それはよかったです」 左足や左腕をさすりながら男性は笑う。 過去に何かあったのだろうかと、賢治が様子を見ていると男性の目が捉えた。 いや、正確には賢治の手にある人形を見ている。確かに初対面の人間が手に人形を抱えていたら気にもなるだろう。 「君も祓い屋さんかな?」 「彼は大林賢治くんです。最近、私の依頼を手伝ってくれてます。私以上に強い霊力を持っているんですよ」 「ほう……君が大林くんか。方々から君の話はよく聞いているよ。個人でいくつか事件を解決したらしいじゃないか。素晴らしいね。祖父の“大林治さん”のようだ」 「あ、爺ちゃんともお知り合いでしたか。もしかして、祖父が何かご迷惑をお掛けしませんでしたか?」 「はは……。若い頃から破天荒な人だったからね。心配しなくていい。良き関係だったと思ってくれていいよ」 「そ、そうですか……」 ホッと胸を撫で下ろす賢治に男性は「若いのに気苦労が絶えないね」と苦笑を浮かべつつ、望桃へと視線を移す。どこか懐かしむような顔で二人を眺めた。 「こうして、灰塚さんと大林さんのお孫さんが揃うと、昔を見ているようで懐かしいな。お二人のように、鉄よりも固い絆を結んでいけるように祈っているよ」 「えぇ。私たちもそうなれるように努力していこうと思います」 「うん。そうだね」 男性の言葉を噛み締めるように二人で頷くと、男性は満足したのか今日訪ねてきた理由へと話は移った。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加