拾仇

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それは一通の封筒から始まった……。 「なんだ?」 会長の屋敷のポストに直接投函された封筒。切手もなければ差出人の名前もない。ただ一つ、『会長へ』とだけ書かれた封筒に違和感を感じつつも、開けないわけにはいかなかった会長は名指しされるままに封筒を開けた。 そうして中から出てきたのは、赤黒く変色した紙だった。ミミズが這ったような字で何か文字が書かれていた。 特に紙の中央にある二つの眼の画は特に不気味さがある。 「な、なんだこれは。気持ち悪い……。嫌がらせか?」 見た瞬間に背筋に寒気を覚えた会長は、ゴミ箱に捨てようと思ったが、何かあった時に手がかりになることも考え保管することにした。 その日の夜、会長は寝室で休んでいる時にふと視線を感じて窓の外を見る。 「ん?うわっ……!?」 『 ーーーー…… 』 窓の外、暗闇の中に部屋から盛れた光を受けて、人らしきものの姿がぼんやりと浮かんでいた。 突然現れた男に一瞬驚いたが、不審者が侵入してきたのだと気付いてからは早かった。 男が覗いている窓に駆け寄ると、「お前!そこで何してる!」と大声を張り上げて叫んだ。 ー フッ……! 窓にたどり着いた瞬間、男の姿は霞のように消えてしまった。不審者の影を探し、窓の外を見回した会長はある事に気付いて絶句した。 「あ……」 窓の外は二階だったのだ。ベランダはあるがそこは人がとても簡単に登ってこれるようなものではない。 男の姿が消えた時、足音もしなかった。 つまり、言葉のとおり男は“二階のベランダ”から忽然と姿を消したのだ。駆け寄った自分の目の前で……。 ありえない状況に気付いてしまった会長は、すぐに知り合いのツテを頼りにこの町で一番の祓い屋へと依頼をお願いすることにした。 自分の体験したことを細かく記し、最後に早急にお祓いを依頼したい旨を書き込んだ手紙を記す。 『 ーーーー…… 』 「う……!」 ーパシャッ! 手紙を書いている最中、またしてもベランダから視線を感じた会長は引き出しからカメラを取り出し、自分は視線を向けることなくシャッターを切った。 すぐに写真を現像すると、写っていたのは目も鼻も耳もない、まるでてるてる坊主のような男が窓越しにこちらを覗いている異様な姿だった……。
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