拾仇

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「さて、この写真ですがこちらでお預かりしてもいいですか?」 「えぇ。お願いします」 「はい。こちらで丁重に供養させてもらいます」 「あ、あの……。本当に今後、あれが目の前に現れることはないんですか?」 「ありませんよ」 「断言されるんですね……」 「えぇ。だって、その怨嗟の視線は今、ね……」 「えっ……?」 どうしたものでしょうね?と元菊は困ったように笑いながら、再び窓の外を見る。 会長の目には何も見えないが、元菊の目には何か見えているようだった。 「まさか、怨念が窓の外で見ているんですか?」 「いえ?ですよ。距離にして私のいる場所から大股で三歩ほどですかね。その位置に立って私を見ています」 顔は霞がかかったように、ぼやけて見えないが確かに自分を見ている視線は感じるそうだ。 「な、なんで……呪われていたのは私じゃなかったんですか?」 「きっかけはこの写真ですよ。たまたまでしょうが、写真に姿を写したことで、相手のかけた呪いの術式が歪んだんでしょう。写真を媒体にして呪う相手を定めるように変貌してしまったようです」 「ん、んん……?」 淡々と答えてくれるが、何を言っているのかまったく理解できない。一度放たれた呪いは放ったきりだと思っていたが違うのだろうか。変貌などと表現していたが、変化する呪いなどどうやって祓うというのだろうか。 「大丈夫なんですか?」 「正直、分かりません。ただ、このタイプの“呪い”は過去に知り合いが受けたものに似ている気がします。呪いを受けた日から一歩づつ近付いて来て、最後は私のすぐ目の前に現れるんですよ。そして、膨らんだ恨みを晴らすためにこの首に手をかけて異形の力で簡単にへし折るんです。まるで彼岸花を手折るように、いとも簡単にね……」 「そんな……」 あの顔を書き忘れたてるてる坊主が、日に日に近付いて来て、最後は目の前に現れて自分の首をへし折りに来るなんて、想像するだけで身が震える。 とても危険な状態だというのに、当事者になった元菊は困ったような顔を浮かべるだけで、特に今すぐどうこうする様子もなかった。 「そ、その……お知り合いの方は大丈夫だったんですか?」 「死にましたよ。ぼっきり首を折られてました。新聞にも載るほどの事件にもなりましたがご存知ありませんか?」 色々と手は尽くしたんですけどね、と元菊は深くため息を吐くと少し昔を思い出したのか悲しむような視線で窓の外を眺めた。
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