拾仇

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「大変じゃないですか!?今すぐ、私に戻してください!」 「できませんよ。依頼を受けたわけですからね。こちらもプロです。受けるからには祓い屋として絶対の覚悟を持って依頼に望む。その覚悟に泥は塗らせませんよ。たとえそれが、依頼者でもね」 強い信念を宿した瞳が向けられる。とてもこれ以上、なにかを言える空気ではなかった。 「貴方には家族がいらっしゃいますか?」 「え?えぇ……。妻と子どもが三人います」 「そうですか。貴方が無事でよかった……。少なくとも、貴方の命が守られたことで四人の笑顔は守れたんですから。祓い屋として、これ以上の報酬はありません」 ふふ……!と小さく笑みを零し、元菊は机に向かうとサラサラと何かを書き込み手渡してくる。 確認すると、今回の相談の請求書だった。 そこまで法外な値段では無い。 地鎮祭などで神主を呼んだ時とそう変わらない値段だった。 「え、あの……。これで終わりですか?霊の除霊のためにお経を読んだりとか、自宅のお祓いとか」 「必要ありませんよ。貴方も、貴方のご家族も呪いから解放されました。今後のために一つアドバイスするなら、怪しい手紙や荷物は開けないに限ります。触らぬ神に祟りなし……ですよ」 「は、はい……」 「あとは私に任せて、全てを忘れて日常に戻りなさい」と一言告げて執事を呼び寄せた。 そのまま背中を押されるように、部屋の外、そして屋敷の外へと連れて行かれるともしもの時に使うようにと一枚の御札を手渡された。 そのまま執事に見送られ、呆然としたまま自宅へと帰路に着いたのだった。 それから一日後の早朝、彼らは現れた……。 「おーい!会長ー!!ちょっと話いいかーい?ダチが呪われた件について話を聞きたいんだけどー?」 「は、はい!?え!?あれ!?灰塚さん!?どうしたんですか!?そんなボロボロで!?」 「あ、あはは……あぁーあ……着いちゃった。カッコつかないなぁ……。本当、コイツ嫌になるわ」 元気いっぱいの笑顔が印象的な男と彼に引きずられるような形で、頭を抱えた様子の灰塚元菊が深々とため息を吐いた。 その姿は本当に引きずられてきたのだろう。高そうな着物は着崩れて所々汚れていた……。
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