呪仇

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玄関先では話もできないので、中に入るように促すと元気な男が放り投げるように元菊を屋敷の中に押し入れる。 「どうも突然すみませんね!会長さん!俺はこいつの古くからの友人で大林 治(オオバヤシ オサム)って言います。こいつが“やばい怨霊”に呪われたって聞いて飛んできました。良ければ話を聞いていいですかね?」 「すみません、会長。昨日の今日でこんな姿をお見せするとは思ってませんでしたよ」 「え、えぇ……。私も昨日の今日で、そんなボロボロの灰塚さんを見ることになるとは思いませんでした……」 なんと声をかけていいやら分からない。とりあえず、元菊の無事を確認するとどうやらボロボロなのは呪いの影響ではなく、本当に友人からここまで引きずられてきたことでそうなったらしいことは話の端々から分かった。 あれほど、祓い屋としての凄みを感じた灰塚元菊の姿どこにもない。 今はただ、目の前の豪胆な男に振り回されている可哀想な男にしか見えなかった。 「あ、あの貴方は灰塚さんの本当にご友人ですか?」 「友人というより親友を超えた腐れ縁みたいなやつです。な!元菊!」 「私は今すぐ縁を切りたいよ……」 「照れるなよ〜!あはは……!」 がっしりと肩を掴んで、にっかりと笑って答える治と恥ずかしさに消えてしまいそうな元菊の対比が実に印象的だった。 「で、俺は親友を救いたい。貴方の知ってることを話してくれないか?こいつ、大丈夫大丈夫の一点張りで話にならないんだよ。大事なことは何も話さないんだ」 「そりゃ、お前を巻き込みたくないから……」 「俺はお前の親友だぞ?苦楽をずっと昔から共にしてきた仲だろう!?一蓮托生、断琴の交わりってヤツさ!もっと頼ってほしいもんだね!」 だからって、市中引き回しの刑に処して無理やりでも吐かせようとするのは如何なものか。 なんて破天荒な人だろうと、苦笑を浮かべると治は強い眼差しでこちらを見る。 その目は昨日の元菊が見せた強い信念が宿った目と同じ目をしていた。 思わず息を飲む。背筋に刃物を突きつけられたような冷たい感覚を感じ身が震えた。 この人は灰塚元菊よりも凄い力の持ち主なのだと、本能で理解させられた。 「会長さんも気になってるでしょ?自分に向けられた呪いがその後どうなるのか、その後ちゃんと祓われるのか、それともまた現れたりすることは絶対にないのか」 ただ、治の言う通りその後が気がかりだったことは間違いない。 「えぇ……たしかに仰る通りですね。灰塚さん、すみません。灰塚さんの覚悟も分かりますが、やはり、私は貴方にも生きていただきたい。どうか、及ばずながらですが、私も協力させてください」 「会長さん……いえ、こちらこそすみません」 「ありがとう!会長!」 会長は意気消沈している元菊に謝罪すると、二人に調査への協力を願い出た。
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