弍呪

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「あなたを信じます。あなたを愛します。その気持ちがある限り、神はあなたにチカラを与えてくれるでしょう」 「……そうなのかな」 賢治は少し寂しそうな顔をすると、自身の手を見つめる。その手を振るえば邪なる存在は、神の加護で祓われる。だが、その力で賢治はギフトをくれた神を祓うことになってしまった。 ある夏のこと。今から少し前のことだ。 「“アイツ”が神は消えたといっていた」 「神は消えないわ。信じる限り、ずっとそばにいる。今はそうね。神様もおやすみしているのよ」 永く永く、気も遠くなるほど昔の話。ある神様が愛する土地に訪れた災いを防ぐために、チカラを使い奇跡を起こした。代償として穢れを背負い、その身体は怨念に蝕まれやがて神自身も邪神となってしまった。 それを封じたのが、二人のご先祖さまだ。 そして、その封印が破られた時に再び封じたのが賢治たちの祖父たち。 そして、またしても封じが破られた時、怨念から解放したのが賢治と望桃であった。 「おやすみか……。たしかに、土地神さまはずっと昔から僕らのために頑張ってくれてたもんね。少しくらい休んでほしいな」 「えぇ。だから、また起きてきた時に誰も知らないじゃ可哀想でしょ?だから、覚えておいてあげましょう」 「あぁ、たしかに。覚えておかないとね。僕らのことをずっと見守ってくれた“優しい神さま”のことを」 「えぇ……今は神さまの無事を信じましょう」 信じるものは救われる。それは信じ合う双方にもたらされる恩恵なのだ。無償の愛とも呼べるそれは、やがて大きなチカラとなってどんな困難も打ち払う光となる。 だから今は…… 「信じるよ。神は消えてないっていう、灰塚の言葉を」 「まぁ!賢治ったら!なら、私を信じてこの紙にサインをしてちょうだい」 「それ婚姻届やないかーい!まだ持ってんの!?本当、どこでも出てくるねぇ!ド〇えもんかな!?」 「……今度、その不名誉なあだ名で呼んだら、お不動さまに夢枕に立ってもらうようにお願いするから」 「それはあかんやつ!!」 「そう思うなら、私をネタ枠扱いから外しなさい。ちゃんとヒロイン枠として丁重にお姫様扱いしなさい。昔のように」 「昔からそんな扱いしてな……『お不動さまお不動さま』す、すみませんでしたあぁーー!」 土下座して謝罪する賢治に満足した望桃は、気を取り直して灰塚の屋敷に戻ることにする。あそこなら、祖父の手記を探ればなにかしらヒントが出てくるかもしれない。 「屋敷でなにか情報が手に入るかもしれないわ。賢治、手伝いなさい」 「はーい……。お姫様っていうより、女王様じゃん(ボソリ)」 「なにか?」 「なんでもないです!」 「そう?それじゃあ、行きましょう!」 「ちょっ!?ひっつきすぎじゃない!?」 がっくりと項垂れる賢治の腕を逃げないように両手で抱えるように掴むと、望桃は屋敷を目指して颯爽と歩き出す。 賢治は何故かその間、明るい笑顔の望桃とその腕に絡められた腕を交互に見ながら顔を真っ赤にして俯いていた。 「あれがリア充ってやつか」と、屋敷の門から覗いていた会長の声は幸い二人には聞こえなかったようだった。
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