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「大体掴めたわね……」
「うん」
「まとめよっか」
記録を読み終えた望桃は、同じく記録を読み終えた二人に向き直る。
それぞれが得た情報を擦り合わせると以下のようなことがわかった。
【 会長の事件の全容 】について。
調べたところ、事件のきっかけとなった“血に染った手紙”は呪詛の類で間違いなかった。古来より伝わる呪法により、その呪詛は簡単に祓えない強力なものになったようだ。
差出人は分かったが、手紙が会長の手元にあった日に遺体が廃神社の境内で見つかっている。
警察の話では遺体は損傷が激しく、本人と確認が取れるまでにかなりの時間を要したとのことで、会長が知ったのはずっと後のことだった。
会長と故人は窮地の間柄だったようだ。しかし、会長の強引な経営に反発したことでリストラされてしまう。一家離散の後に病を患ったことで、会長へ強い恨みを抱いたらしい。
その時、オカルトマニアと出会い、徐々にオカルトに傾倒。何者かの手助けがあり、独自で呪いを完成させてしまったようだ。
会長の思い付きにより呪いは変容し、他者に移るようになった。灰塚元菊に移ることで呪いから逃れた。
【 灰塚元菊の呪いと解呪 】について。
手紙を調べたところ、呪いは三日で呪力が溜まり相手を呪い殺すものだった。数回解呪を試みたが、怨念の力を削ぐに至らず。強い怨念には、念仏も祝詞も届かないようだった。
残り半日となったところで、大林治が呪いを引き継ぎ、〈 カミノマナコ 〉によって封じる。封じた場所は清らかな水の流れる場所が見える祠。
封じたあとは、何人も祠へ接触できないように祠をフェンス等で物理的に塞いだ。
【 呪詛についての手記 】
呪いは相手が定まると、三日後に呪い殺す。
呪いの正体は、遺体で見つかった男の魂だが強い怨念と呪力が結びついているために祓うことはできない。
発現してから一日に一歩ずつ歩み寄って来る。
ひたりひたりと一歩近付いてきて、最後は相手の首に手をかけ花を手折るように異形の力でくびり殺す。
解呪のためには怨念を封じる他ない、と祖父たちは判断したが、それには“制約”があったからと語っている。
これについて、神から力をお貸し頂くための結んだ“制約”に触れる点があったと望桃は予想した。
【 “カミノマナコ”について 】
大林家の祖先は昔、神主をしていた。そこで祀っていた土地神から大変に愛されており、〈 視る力 〉と〈 祓う力 〉を授かっている。
大林治もまた、土地神との繋がりを大切にしており、敬意を示すために〈 霊を視る眼 〉と〈神に愛された子〉をかけて、自身を〈 カミノマナコ 〉と呼ぶようになった。
代が変わり、その力の大半は失われているが大林治と大林賢治は如実にその力が高まっている。
原因としては、霊力を高める修行を行ったことと、〈 人ならざるものたち 〉と相対する時が多かったためだろう。
特に霊障に晒されると、神の加護が強く働き力は更に強くなっていくようだ。
神の神聖なる気は、あらゆる邪を祓う剣となり得るだろう。
「カミノマナコである、賢治の力が鍵になるのは間違いないわね」
「未だにまだむず痒く感じるよ……」
「だめだよ?ケンちゃん。神さまの姿を最後に視たのはケンちゃんなんだから、最後まで信じてあげないと」
「そういう瀬田さんもよ。巫女さんの血を引いているんだから、あなたも神に愛された一人なんだから」
「神社に神を降ろすための神事を作り上げたのは、他でもない、灰塚のご先祖さまだけどね。てことは、灰塚も神に愛された一人ってわけだ」
「大昔の繋がりが、まだこの時も続いているっていいわね……感慨深いわ」
飢饉にあえぐ土地に神を降ろして豊かな土地へと変えるために神事を完成させたのが、灰塚望桃のご先祖さま。
その時に霊力が高いことを理由に神事に参加し、後に神社の神主になったのが大林賢治のご先祖さま。
神主に着いて手伝いをしていた巫女の子孫が瀬田祐奈であった。
「有り難いものだね」と、三人で神さまの結んだ縁に感謝するとその縁を断ち切らせたくないと、皆は心で強く願いをかけていた。
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