弍呪壱

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「呪いが封じられたという場所に行ってみましょう。何か封じるヒントがあるかもしれないわ」 「そうだね。実際に封じてたんだもん。何か出て来るよ、きっと!」 「そうと決まれば、移動しよう。場所は分かる?」 「ええ。町の中を流れる白川の近くよ」 さっそく行ってみようと、三人は荷物をまとめて灰塚の屋敷を出る。すぐに呪いが封じられたという祠のへ到着したが、三人はそこで驚くべき光景を目の当たりにした。 「あれ?道が広げられてる……」 「大変!祠ってここにあるんじゃないの!?」 交通量の増加により、道路の拡張工事が行われていたが、なんとそれが祠のあるとされる場所に重なるように行われていたのだ。 今では更地になっており、多くの人が焼けたアスファルトの均し作業を行っていた。工事も終盤のようだ。 「これはこれは……。どうしようかしらね」 まさか、ヒントどころかそのもの自体が無くなっているとは思っていなかった。 「みんな、どうしたのかな?歩道なら仮のものがあるから、そっちから通り抜けれるよ?」 更地になった祠跡を眺めて、賢治が途方にくれていると交通誘導員が歩み寄ってきた。どうやら、拡張工事を険しい顔で眺めている三人が気になって見に来たようだ。 「いえ。少しこの道に思入れがあったもので。形が変わるのはいつの世も寂しいものですね」 話しかけて来た誘導員へ答えて、望桃は少し悲しむような視線を更地になった祠跡に向ける。 その視線に誘導員は何か思うことがあるのか、同じように物悲しい表情で道を振り返った。 「そうだね。時代の流れってやつかな。僕の実家近くもどんどんインフラ整備整備で思い出が消えて行ってるよ」 コンクリートに固められた地面を踏み鳴らして、やるせない気持ちでいっぱいだと胸の内を明かした。 「あの人もそうだったんだろうなー……。だから、あんな無茶したんだろう」 「あの人?」 「それが、実は工事が始まるって日に道の脇にある小さな祠に祀ってあった何かを持ち出した人がいるんだよ」 「えぇ!?そんなことして大丈夫なんですか!?」 「道端にあるものは、明確に誰かの所有物ってわけじゃないから問題にはならなかったんだけどね。見た人の話だと、これくらいの大きさの箱だったよ」 何が入ってたんだろうねと、手で小さな箱を作り誘導員は小首を傾げる。手で示したのは、小さなものだ。木箱だったというが、ちょうど写真と同じ大きさに見えた。 「灰塚、それって……」 「えぇ。すみませんが、その瞬間を目撃した人を教えて貰えますか?祠は亡くなった祖父が作ったもので、その木箱は祖父が持っていた物かもしれません」 「え?そうなんだね!そういうことなら……ちょっと待ってね」 誘導員さんは中年の男性を連れてくると事情を代わりに説明してくれた。 目撃した人によると、工事のためにフェンスが解体されたところにが突然現れて、中の物を取り出して行ったそうだ。 「ちょっと、無警戒すぎませんか?工事現場に無断で入って来たんでしょ?」 「いや、普通の女性だったんだよ。化粧っ気もない、大人しい感じの女性でさ。本当、忘れ物を取りに来たような雰囲気でそそくさと、祠から物を持っていったからさ。あの祠の管理者だと思ってたくらいだ」 「ダメですよ。事故でもあったら大変じゃないですか……」 誘導員のツッコミに、目撃した男性は何ともあっけらかんとして答える。誘導員は呆れた顔で、追い返すように釘を刺した。分かっているのか分からないのか、男性はこれまた笑って頷いている。 「その女性、どんな容姿か分かりますか?」 「あぁー……えーっと。こう、薄い緑色の長袖のカーディガンで、髪は肩くらい。メガネをかけてて、話しかけるとなんかおどおどしてたな。顔は可愛らしい若い子だったけど、なんかこう闇があるような感じだったかな」 「絶対怪しいじゃないですか!?よく“普通の女性”なんて言いましたね!?」 「いやだって、そこ以外は普通で、あとはこっちが申し訳なくなるくらいに頭下げてたし」 「おどおどしてるのは、なんかやましいことがあるからでしょう?」 「緊張しやすいのかもしれないだろ?俺みたいにな!あはは……!」 「どこが!?」 誘導員と男性がまた揉めている。だが、決して喧嘩になるような様子はない。いつもこんな感じなのだろう。 「二十代くらい。少しおどおどしてて、緑色のカーディガンを来てる、セミロングのメガネ姿の女性……。そんな人どこでもいるわよね……」 特徴を口にしながら、望桃はどこかで見覚えはないか記憶を思い返していると、「あっ……」と賢治の息を飲む声が聞こえた。
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