弍呪壱

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「わかったの?」 「灰塚、あの人じゃない?会長さんの娘さんの……」 「あぁ……そういえば、そんな雰囲気の人だったわね。これ以上の手がかりもないし、会長に確認してみましょう」 当時の状況をもう一度、目撃した人から確認すると事実を確認するために会長の自宅へと戻った。 「娘ならさっき出かけたよ。現場へ弁当の差し入れじゃないかな。昼過ぎには帰ってくる思うが……どうしたんだい?」 「そうですか。ちょっと、気になる事があるので部屋を見せてもらうことはできますか?」 「部屋か。さすがに娘といえど、プライバシーがあるから勝手に入るわけには……」 全部を言い切る前に少しの間が空く。ダメかと思ったが、会長は「いや……」と呟き二階へと続く階段を見上げた。 「少し私も気になることがある。同伴でいいなら、案内しよう」 「えぇ。もちろんです」 三人は娘さんの部屋へと向かった。 会長に続いて部屋に入ると、中を見渡す。 中は綺麗に整理されていた。いや、整理されていると言うよりも物がなかった。あるのは机とベッドだけ。本当に必要最低限の物だけしかなかった。 「なんだか、もの寂しい部屋だね」 「えぇ。随分とすっきりしているわね」 望桃の部屋のように、賢治の卓上の写真とか等身大写真とか、引き伸ばした写真とかレントゲン写真とか、手作りの賢治のぬいぐるみ(髪の毛入り)とか、昔デートの途中で買ってもらったラムネの瓶などはない。 実に簡素な部屋だ。 「ぶるぶる……!?んんっ!?ちょっと待って。今、なんか寒気がしたけど?」 「あら、風邪?気をつけてね」 「うん?うん……?うん……」 急な寒気に身を震わせる賢治を脇に置いて、望桃は徐ろに机へと向かうと引き出しを開けた。 「これは……」 引き出しを確認すると中には古めかしい木箱が入っていた。かなりの年季のはいった物だ。 箱に触れると、じんわりと背筋に汗が滲む。肌を何かが這い回るような嫌な気配に思わず後退った。 「っ……この感覚。間違いなく、祠から持ち出された物ね」 「祠って……まさか!?なんでそんなものが、あの娘の部屋にあるんだ……!?」 瞬時に状況を理解した会長は、衝撃の事実に愕然としてしまう。やっと、呪いから開放されたと思っていたのに、まさか自分の娘が呪いを呼び戻していた とは思いもよらなかっただろう。 「呪いの木箱を持ってきたのは、娘さんで間違いないでしょう。目撃者のいう特徴とも一致してますから」 「ただ、動機がなんなのか分からないね。あと、どうやって、この写真の在り処を知ったのかも気になる」 「そうね。会長、娘さんから話を聞けますか?」 「あぁ、私も知りたい。すぐに呼び戻そう」 会長はすぐに娘さんに連絡すると、すぐに戻ってくるように伝えたが…… 「歩美。今すぐ戻ってきなさい。話がある」 「っ……ごめんなさい」 ー プツ!……プー……プー……プー……。 「歩美!?歩美!!アイツ!」 娘さんは何かを察したのかすぐに電話を切ってしまった。 それから何度かけ直しても、電話に出ることはなかった。
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