弍呪壱

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「あ、見つけた。よかった、町の外じゃなかったみたい」 「そうなのね。自宅に一度、荷物を取りに戻るつもりだったのかしら」 「かもね」 腕時計を見れば、時刻は夕刻を指している。 屋敷を飛び出してから三時間。 皆で娘さんを探して、右往左往している間に随分と時間をロスした。 すぐに賢治の守護霊たちが見つけたという場所に向かう。 場所は白川に架かる大きな橋。 震災以降、新設された大橋だ。 「あら……。ここは前に依頼で来たことがあるわ」 「そうなの?」 「悪霊が巣食っていたから、お祓いしたの。今は綺麗に浄化されてるわよ」 「あ、本当だ。空気が澄んでる。綺麗に辺りの霊も成仏してるね。数える程しかいないや」 「除霊後に、橋に“浄化の祈祷”を施したのよ。大抵の怨念はここでは無力になるわ」 「ヒュー。さすが最強の祓い屋さん。アフターフォローもばっちりだね」 「ふふ……!当然よ」 橋の周囲を見て、賢治は感嘆の声をもらす。 賢治には、大自然の中に架かる大橋はとても美しくまるで神社のような神聖味を感じるらしい。 賢治の賞賛の声に、内心でガッツポーズをキメる望桃。 しかしすぐに、その喜びの浮かんだ口元はキュッと引き締められた。 その視線の先には、橋の欄干に手を置いて悠然と流れる川を眺める女性の姿があった。 会長の娘、歩美さんだ。 「歩美さん」 「……なっ!?あなた達は!?」 川に視線を奪われていた歩美さんに足音を忍ばせて近づくと、すぐ隣で声をかける。 歩美さんは最初、声をかけられても誰か分からない様子だったが、すぐに状況を察すると驚いてその場から飛び退いた。 「そう警戒しないでください。少し話をお聞きしたいだけですから」 「し、死のうとしたのを止めに来たんじゃないですか?」 「死のうとしてたんですか?初耳ですね」 「そ、そうなんですか……」 橋の下をちらりと横目に見て、歩美さんは気まづそうに視線を下ろした。 予想と違ったことに少し落胆の色が見える。 勢いでここまできたが、本当は止めて欲しかった……というところか。 まぁ、三人は死なせるつもりなど毛頭ない。 いつでも飛び出せるように、賢治と祐奈はちゃんと身構えている。 「えぇ。だから、そう警戒しなくて大丈夫です。私が知りたいのは一つ。この“少し後ろに立っている怨霊”のことです」 「えっ!?アイツがそこにいるんですか!?」 自身の背後を指差し問いかけると、明らかに歩美の顔色が変わる。やはり、怨霊の存在を知っているのか。 ちらりと背後を振り返ると、怨霊は朝よりも半歩ほど近づいていた。距離にして二歩半。 だらりと伸ばされた手はもう、望桃の身体に届きそうだった……。
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