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「な、なにあれ……!」
「あなたも彼らのところに行きますか?」
「ひいぃーっ!!」
唸るような声と共に触れられた肩の感触。
その恐ろしさにたまらず飛び上がった歩美は、そのままへたりこんでしまった。
ガタガタと身体を震わせ、頭を抱えて今見た光景を必死に否定しようとするも、その目に焼き付きた人々の姿と、その耳に未だに残る彼らの声はまったく離れてくれなかった。
「なんですかあれ!なんですかあれ!」
「彼らは霊ですよ。この世に未練を残して死んでいった者の姿です」
「幽霊ってことですか……?」
「はい」
「嘘よ……!気のせい!霊なんていない!呪いなんてないのよ!」
ガタガタと震えて地面に伏せてしまった歩美を引き起こして、賢治は座らせるとその前にしゃがみこんで真っ直ぐに目を覗き込む。
「いますよ、彼らは。すぐ隣で、僕らを見つめているんです。だから、あなたが呼び起こした“呪い”も気のせいなどではなく、ちゃんとそこに存在しているんですよ」
望桃の後ろを指差しながら、賢治は小さく笑みを浮かべた。
「人を呪わば穴二つ。彼女が呪い殺されれば、その呪いはまた、ヒタリヒタリとあなたの背後に帰ってくるでしょう。そうなれば、助けてくれる人はもういません。さて……あなたはこの呪いから逃げきれますか?」
「ひっ……!た、助けて!助けてください!何でもします!全て話しますから!」
近づいてくる死の足音に恐怖した歩美は、涙を流して望桃へと縋り付く。
(こんなに怯えさせてしまうなんて。まったく、意地悪な人ね。あなたってば……)
「ふふ……!」
ジト目で賢治を見ると、茶目っ気たっぷりに笑って賢治は返す。
本来、歩美は霊力などないのだろう。感じられない体質のため、おまじない程度にしか考えていなかったようだ。
だから、恐ろしい物が封じられた写真にも触れられたのだ。
全て『ただの憂さ晴らし』程度にしか考えていなかった故の行動だったのだろう。
だが、歩美は見てしまった。聞いてしまった。
そして知ってしまったのだ。
〈 この世ならざるもの 〉が確かに存在していたことを。
同時に自身が解放してしまった存在もまた、確かにそこにいることを示していた。
「賢治。また、できることが増えたの?」
「うん。守護霊が増えたことで、霊力が上がったんだろうね。他の人の霊力にも影響を与えることができるようになったんだ」
意識を集中して、人に触れれば『相手のチャンネルを無理やり繋げることができる』ようになったようだ。
「つまり、霊感のない人にも霊の姿を見せることができるようになったということね」
「まぁ、そういうことになるかな」
「彼女は“賢治が視ている世界”を覗き見してしまったのね」
「そうなるね。常人なら精神を壊しかねないから、使いたくなかったけど……」
足元に縋り泣きじゃくる歩美を一瞥して、その顔には珍しい険しい顔をしながら呟く。
「ごめんね。霊を軽んじられたことに少し腹が立った」
「そう。賢治らしいわね」
家族となったものたちの存在を否定され、頭にきたらしい。実に優しい賢治らしいと、望桃と祐奈は微笑み合うと賢治の思いを肯定するのだった。
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