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幼少より自分を虐げてきた兄姉に、一泡吹かせてやろうと最初は軽い嫌がらせのつもりで祠から呪具を盗み出した。
祠から持ってきたのは、ホコリ被った小さな木箱だった。
何か墨で書かれていたが、達筆すぎて読めない上に上から何枚もの御札が貼られていたのでその意味は理解できなかった。
なんとも怪しげな箱の様相に、歩美の気持ちは怖気付くどころか輪をかけて期待が大きくなる。
『これで兄たちに嫌がらせしてやる……』と口元に笑みを浮かべ、喜び勇んで自宅へ帰って自室で箱を開けた。
中には一枚の古ぼけた写真。
写真を見た瞬間、歩美は背筋に寒気を覚えて直ぐさま箱ごと机の引き出しに放り込んだ。
それでも寒気は収まらない。
強い視線を背筋に感じて振り返る。
特に何かが見えるなんてことはなかった。
『そ、そうよね……。幽霊や呪いなんてあるわけ……』
そう思って振り返った瞬間、耳元で『ウウウゥゥ……!』と男の苦しむような唸り声が聞こえた。
歩美は飛び上がると、弾みで机の引き出しが開く。
今度は間違いなく“写真の中の男”と目が合った。
とても手元に置いておけない。今すぐにでも、兄姉に投げつけなくては!そう思うが、残念なことに兄姉は県外へ出張に出ていて今は家に不在だという。
早くても帰ってくるのは一ヶ月後になると聞かされ、歩美は愕然とした。
『ゔぅぅぅ……!』
『ひっ!?』
最初は気配だけだったが、段々と気配が実体化しているのが分かった。
影だけだったものが、やがて肉が付き、確かな存在となって自分の背後に忍び寄ってくる。
それは一日後には目に見えるほどにはっきりとした形で背後に見えた。
『ウゥゥゥアアァ……!』
『うそよ!そんな!幽霊なんて!呪いなんてあるわけ!』
二日後には近づいて来ていることに気付いた。
すぐ後ろに気配はいる。
『ヴゥゥアアァ……アァ……』
『なんでこんなことに……』
『ヴアアァ……!』
『元はと言えば、祓い屋が除霊しそこなってたから……!そ、そうよ。祓い屋よ!祓い屋に押し付けちゃえばいいのよ』
そこで歩美の恐怖は限界だった。
手紙と共に写真を同封すると、灰塚の自宅の玄関先へと置いてきたそうだ。
それからすぐに気配が消え、振り返っても男の姿はなくなっていたいたので、上手く祓ってくれたのだと胸を撫で下ろした。
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