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「まったく、迷惑至極な話だわ……」
「本当そうだね」
仔細を聞いて歩美さんを自宅に送り届けた望桃たちは写真をしまっていたという“木箱”を受け取り会長宅を後にした。
一度、灰塚の屋敷に戻ると封じていたという木箱について調べることになった。
「ただ、そうだなー。一つ良かった点はあるかな」
「あら、何かしら?」
「もしも、歩美さんが箱を持ち出してなかったら写真がどうなっていたか分からなかった。工事の人がたまたま中身を見てしまったり、何かの拍子に中身が行方不明になったりして、新たな被害が無差別に広がらなかっただけ良かったなって」
「……確かにね。箱と写真がこうして手元にあるというだけでも、解呪できる可能性は十分高まっているといえるわね」
写真の入った木箱を一つ撫でて、望桃は小さく笑みを浮かべる。
「あちこち移動してるうちに夜になっちゃったな。残り時間は大丈夫なの? 」
「大丈夫かどうかでいえば、微妙ね」
確実に近い場所に、影はあると望桃は背後を振り返り答える。事務仕事をするための椅子に腰を下ろしていた望桃の視線はすぐ後ろを見上げていた。
視線から察するに真後ろだ。
「ここに来るまで、やっぱり“この眼”で捕えることはできなかったな」
「呪詛が複雑に編まれている証拠ね」
「そんな相手だ。祓う方法なんて本当にあるの?」
「……そうね。今のところ見つかってないわ」
祖父の残した手記には、当時のことが事細かに記されている。なぜ“祓う”ではなく『封じる』に至ったかの経緯も記されていた。
「お経も香の類も効果はない。経文を見せても効果がない。どうすればいいかまったくもって分からないわ」
このまま、こちらからは何もできず、いずれは呪詛の手が首にかかって手折られるのでしょうね?と望桃は呟くと今がどういう姿をしているか真似してみせた。
両手を伸ばして、少し前かがみになった男が背後に立っているという。
「ねぇ。一つ気になったんだけどさ」
「何かしら?」
祐奈が手をあげて首を傾げる。
「その怨霊ってさ、男性なんだよね?」
「えぇ。そうね」
「どんな姿なの?」
「姿は分からないわ。影に包まれていて、その姿をはっきりと捉えることはできないの。“人影”といえばしっくりくるわね」
少しでもヒントがほしいけど、何も得られないわと背後に立つ真っ黒い人物を見上げ、望桃は困ったように笑うのだった。
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