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皆の気力が回復した頃、菊池さんが部屋に現れて賢治たちを別室へと案内を始める。
賢治たちのいた書斎から廊下を歩き、屋敷の中を進む。
いくつか部屋を通り過ぎたところで、ふと目に入ったのは一つの扉。
「あ、ここ。灰塚の部屋だ」
「え?そうなの?」
「うん。小さい頃に一度だけ来たことがあるんだ。確か爺ちゃんについてきて、退屈してたら庭で灰塚に会って……。それで一頻り外で遊んだあとに、部屋に招かれたんだよ。確かママゴトしたんだっけ」
「えぇ。そうでしたね。あの日は、お嬢様もそれはそれは嬉しそうでした」
賢治の記憶に菊池さんも当時を思い出して頷く。
記憶違いではないことに安堵しつつ『懐かしいな』と望桃の扉に手を触れる。
開けるためではない。部屋の主がこの場にいないのに、そんな無遠慮なことをするわけない。
単に思い出に浸るための行動だった、はずなのだが……。
「ケンちゃん?女の子は部屋は勝手に覗いちゃダメだからねー?」
「はは……!分かってるよ。またお招きされたら、皆で遊びに来よう」
「そうだね。灰塚さんの部屋もどうなってるかちょっと気になるもんね。子供部屋だった頃とは大きく変わってると思うよ?」
「まぁ、精神も成長するからね。たしか、小さい頃は絵本や人形が多かった気がする」
今もそんな感じだったら、ギャップがあっていいかもね、なんて賢治は笑い扉から離れる。
そんな賢治に菊池さんは『さて、どうでしょうね?』と苦笑を浮かべて踵を返すと先に進むように促した。
「(見ない方がお互い幸せかもしれませんよ)」
閉ざされた扉の向こうに広がる狂気の世界を思い出し、菊池は思わず身を震わせる。
賢治の卓上写真とか等身大写真とか、手形とかレントゲン写真とか、手作りの賢治のぬいぐるみ(髪の毛入り)とか、昔デートの途中で買ってもらったラムネの瓶とか…………。とても見せられたものではない。
「(本当……賢治さんが目にしてたら何が起きていたことやら)」
望桃がいるお祓い部屋の前に辿り着くまで、菊池の笑顔は引きつっていた。
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