弍呪弍

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「ごめんなさいね、二人とも……」 自身の力不足に歯がゆさを感じ、望桃は倒れ付したまま唇を噛む。 蝋燭の明かりだけが照らす望桃の姿は、疲れも相まって悲壮感が漂っていた。 白い着物に身を包んだ望桃の背中を二人で、励ましと労いを込めて優しく撫でながら何か手はないかと思案する。 (二人の手が温かい……。あぁ、衣が薄いから直に熱が伝わってくるのね……) 背中を撫でる二つの手。 小さく少し柔らかな女の子らしい手と、大きく骨ばった固く少し大きな手。 祐奈と賢治の手から伝わる感触は違うが、どちらも温かくて心地よい。 「まるで、両親に撫でられてるみたい……」 「ん?どうした?」 「ふふ……!二人に励まされて少し元気が出てきたわ」 むくりと起き上がると、望桃は寄り添う二人の間を通してその背後を振り返る。 そこには何の変化もない怨念が両手をダラりと伸ばしてこちらを見下ろしていた。 「顔は影がかかって見えない。全体像もぼんやりと霞がかったように見えないのに、その全身から立ち上る殺意は凄まじいものね。余程強い怨念を抱いて呪詛となったのでしょう」 上手くことを収めたら、自身の手札の一つとして欲しいわね。と含み笑う望桃に、二人は商魂たくましいと苦笑を浮かべた。 「意外と塩とかで片付くんじゃない?」 「ファブリーズとかね」 「ファ……そ、そうね。いろいろ試してみないとね」 試してみたが、やっぱり効果はなかった。 「はぁあぁ~~。どうしたらいいのかしら……。これほどまで苦戦させられたのは久しぶりだわ」 心身ともに疲弊した望桃は、ゴロンと祓い部屋の座布団を下にして寝転ぶと天井を見上げて頭を抱える。 「灰塚でも苦戦することあるんだなぁ……」 「怨霊悪霊、化生畜生の類いならなんとでもできるけど、“呪詛”となるとやれることも限られてくるのよね……。対処を誤れば、末代まで障りが起きても不思議じゃないもの。お爺様たちはむしろ、呪詛の琴線を掻い潜ってよく封じられたと思うわ」 「爺ちゃんたちか……。って、なっ!?」 賢治に答えるため、寝返りをうつと賢治は何かに気付いたのか慌てて視線を横に流した。 はて?何があったのかと視線を追うと、そこには壁しかなかった。 もしや、何か視えたのか?
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