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「私はいいのよ?賢治が見たいなら、どれだけでも見ても」
「え!?」
「灰塚さん、破廉恥だよー!」
隣にいる祐奈を構うことなく、望桃は受け入れるように手を広げる。
余計に身体のラインが強調され、賢治はたまらず視線を逸らした。
「破廉恥上等。私はむしろ、賢治に見てほしいわ」
「か、からかうなって!」
『冗談ではないわよ?』と望桃は一歩踏み出すと賢治の手を取り、自身の胸に押し当てる。
少し固い男の子らしい手が望桃の胸に触れた。
その感触に賢治はもちろん、触れられている望桃の顔も先ほど以上に朱に染まる。
「は、灰塚!?」
「もしかしたら、これが最後になるかもしれないもの。情けと思って賢治には全てを受け取ってほしいの」
「灰塚……」
「賢治……お願い……」
薄い布を通して確かに伝わる鼓動。混じり合う二つの視線は蝋燭の炎のように熱く揺れていた。
「賢治……」
今一度呼ばれる名前に、賢治は小さく笑みを浮かべると取られた手をそっと抜いて、その着物の乱れを直しす。
「最後なんて寂しいこと言うなよ」
「っ……」
「ようやく誤解が解けてお互いに親友として今までの分、思い出を取り返そうとしてるんだ。まだまだ、まだまだ、こんなんじゃ足りないよ」
胸の前で行き場を無くした手を取り賢治は優しく微笑んでみせた。
「でも……」
残り時間は少ない……。
正直、自分にできることは全てやり尽くしている。
残り時間も一日を切ったのだから、〈 封じる 〉方向にシフトしていかなきゃならないが、それも必ずしも成功するとは限らない。
もしかしたら今回は……と最悪な事態も頭を過ぎってしまう。
だから最後に何か愛する人との間に思い出がほしい。
だから最後に何か愛する人へ思い出を残したい。
私という存在をこの世から完全に無くしてしまわないように……。
大切な人との間により強い絆を残せるように。
「これから灰塚と買い物したり映画行ったり、遊園地行ったり、海に行ったり山に行ったり、まだまだ思い出を作りたいと思ってる。灰塚は何かしたいことないの?」
「結婚式場の下見もしたいわ」
「はは……!話が飛躍してるなぁ。けど、そんな願いも諦めたら全部叶わぬ夢になっちゃうんだよ?」
「そう、ね……」
「諦めないでよ、灰塚。どんな不利な状態でも不敵な笑みを浮かべてくれるから、僕はその隣で諦め悪く泥臭く足掻いて足掻いて今まで奇跡のような結果を掴めてきたんだ。僕の思い描く理想を実現するまで後押ししてくれるのは君なんだから、君にはいつまで不敵な笑みを浮かべていてほしい。君は僕の知る中で、最高最強の祓い屋さんなんだからね」
「賢治……」
握られた手にグッと力が入る。期待を込めて握られた手はとても熱かった。
その手を見つめていると、不思議と胸が熱くなってくる。
「もう……そんなこと言われたら、最後まで泣き顔なんて見せれないじゃないの」
「灰塚には泣き顔よりも、笑顔が似合うと思うよ」
「もう……///どうしてあなたはいつもそう……」
ー トン……
賢治の胸に頭を預けると、静かに目を閉じる。不安と焦りに泡立った気持ちが徐々に落ち着いていくのがわかった。
「必ず君の呪いを解いてみせる。だから、一緒に頑張ろう」
「賢治……」
ヒシと抱きしめ合う、賢治と望桃。
(あぁ、本当に……私は貴方のことが愛しくてたまらない)
「そうね。まだ、私の願いは半分も叶ってないもの。このまま死んじゃったら、恨めしい気持ちが強すぎて怨念になっちゃうわ」
「そ、そりゃー怖いな。灰塚くらい強い祓い屋さんが怨霊になったら、もう誰も敵わないだろう。最強すぎて町一つは軽く滅ぼされそうだ」
「フフ……そうね。それくらいは覚悟してもらおうかしらね」
ポツリと呟いたもしもの話に、賢治はたまらず震え上がった。
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