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「灰塚!?」
「背中が焼ける!痛いっ!」
「なっ!?灰塚、ごめん!見るよ!」
まるで薬品をかけられたような熱と痛みが背中全体を襲う。あまりの痛みに脂汗を浮かべて悶え苦しむ望桃。
賢治は咄嗟に服を脱がせると、背中に回って容態を確認した。
特に何かある様子はない。透き通るように白く美しい綺麗な肌だ。
「ぐっ!あぁっ!」
しかし、望桃の苦しむ様子は変わらない。
「な、何もないね……。なんだろ……こんなに痛がってるのに。病気か怪我なのかな」
「いや……。これはたぶん、“僕らの眼”じゃ捉えなれない類いのものだ」
賢治は自身の鞄を引っつかまえると、中で休んでいた人形を引っ張り出す。
見た目はただの球体関節人形だが、その中にはこの世に強い未練を残した念が宿っている。
今は守護者として賢治らを見守る傍ら、呪いの人形としての能力を使用して事件解決のために協力していた。
『ふぁ……。あれ?どうしたの?みんなして慌てて……』
「ノア、頼む。灰塚を苦しめてるものを教えてくれ」
『え?あれ?お姉さん、どうしたの?なんか苦しそう……』
「くっ!うぅ!ノアちゃん……。ごめんなさい。私の身体に何が起きてるのか視てもらえないかしら」
『“霊障”じゃない方で何か起きてるってこと……?わかったよ。視てみるね』
賢治に促されて、望桃の背中へと視線を向ける。そのまましばらく目を凝らしていると、急に小さく息を飲む声が聞こえた。
『これまずいよ。早く何とかしないと、お姉さん死んじゃう』
「何が起きてるの?」
『今、お姉さんの背中に〈呪いの藁人形〉で言うところの“仮打ち”がされてる』
「「仮打ち?」」
「ぐっ……仮打ちですって……?」
聞きなれない言葉に、賢治と祐奈は首を傾げる。
望桃は何か知っているのか痛む背中を庇いながら起き上がる。
身体を支えようと賢治が手を差し出すが、望桃は『触れられるだけで痛むの、ごめんなさい』と首を振って断った。
「仮打ちってなんなの?」
『うん。丑の刻参りは知ってるよね?』
ノアの“丑の刻参り”を各々思い浮かべる。
草木も眠る丑三つ時。
白装束をまとって下駄を履き、頭に鬼の角の様にロウソクを立てて、藁人形に五寸釘を打ち込む姿を想像すると、ノアはさらに説明を加えていく。
『顔は白粉を塗りたくり、頭には五徳を付けて、その上にロウソクを三本乗せる。下駄は一本歯。胸元には魔よけの鏡、懐には護り刀を備え、口に櫛を咥えるんだよ』
ぼんやりとしたイメージがより明確化され、世にも恐ろしい姿が出来上がる。
『誰にも見られず、藁人形を木に押さえつけ、五寸の釘を一本、心臓に目掛けて金槌で打ち付ける』
ー カーン……!
どこからともなく、鉄と鉄がぶつかり合う音が響いてきた……気がした。
ゾワリと賢治と祐奈は寒気を感じて身を震わせる。
『そう。その一本目が“仮打ち”。その長い五寸釘は、藁人形が木から落ちないように固定するためのもの。いわば、相手を逃がさないために固定するためのものだよ』
「仮打ちはあくまで縛るためのも……の。最後まで打ち抜くことはしない……わ……ぐっ!」
『そ。みんなが想像する、五寸が刺さった藁人形の姿は、まだ呪いの途中のような状態。そこから、別の五寸釘で頭や四肢、腹などを恨みを込めて打ち抜くんだ。』
恨みの籠った釘は藁人形を貫通し、下地となる木にしっかりと打ち付けられる。
これを七日。そこで呪いは完成するという。
望桃もそれは知っていたのか、ノアの言葉に静かに頷いた。
「つまり、私は今……痛っ……」
『うん。呪いを受ける下地を整えられた状態だよ。早く解呪しないと、呪いが始まっちゃう……』
ー う゛ぅうぅ……!
「え!?なに!?」
「唸り声、か……?」
部屋に誰ともしれない低い唸り声が、気のせいではなくハッキリと皆の耳に聞こえた。
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