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草木も眠る深い夜のこと。山間にかかる大きな橋の上。 一人の女子高生が欄干に手を置いて、ぼーっと空に浮かぶ月を眺めていた。 真っ黒な学生服と墨を溶かし込んだような黒髪をその細い腰まで垂らした姿はまるで、深い闇が具現化したようだ。 対して、その肌は外灯の明かりでも分かるほどに白く、その横顔は見る者にため息をこぼさせるほどの美しさがあった。 そんな少女が一人で深夜に山深い橋の上で何をしているのかといえば、ただ何をするわけでもなくぼーっと月を眺めては、ため息を吐くばかりであった。 闇の広がる橋の下からは、川の流れる音よりも大きく風が吹き抜ける音が響いていた。 ー お……おぉ…… また橋を抜けた風の音だろうか? ー おぉ……おぉ……おぉ…… いや違う。では、谷を抜けた風の音だろうか? ー おおぉぉ……おぉ……い…… いや。もっと深いところ地の底から響くような音だ。 『 おおおおぉぉぉーーーい!! 』 違う。それは人の声。大勢の人間が声が重なり合って深夜の橋に響きはじめた。 「やっと現れたわね。待ちくたびれたわ……」 声を聞いた少女はようやく待ち合わせ場所に現れた人物に悪態をつくようにため息を吐くと、月を見上げていた視線をゆっくりと下へと下ろす。 そこには…… 『『 おおおぉぉぉーーい!! 』』 老若男女たくさんの人々がひしめき合うよう川の中に立って、橋の上から見下ろす少女へと手を伸ばして叫んでいた。 「噂通り、すごい量の霊がいるようね」 少女は鞄から大幣を抜き出すと、札を数枚手にして橋から川に目掛けてばらまいた。 「申し訳ないけど、あなたたちにはそこから消えてもらうわ。でないと、困る人たちがいるの」 『『 おおおぉぉーー…… 』』 「在るべき場所にお帰りなさい。一陣の風を持って運び上げ、天へと通じる道へ逝け。光と成りて、天へと昇れ」 札が川に落ちた瞬間に少女が大幣を振り抜くと、突風が川を吹き抜ける。 橋を目指して吹き上がり、助けを求めていた無数の霊は一瞬にして姿を消した。 あとには虫の声と水の流れる音だけが響いていた。
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