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俺の名前は山上尚(やまがみなお)、25歳。何処にでもいるフリーターだ。今、俺はコンビニ帰りで缶チューハイと適当なツマミ、あとはアイスクリームが入った10人ビニール袋を持ち、深夜の住宅街を歩いている。
俺はスマホを片手に、メールに表示されたメッセージを面倒くさい様子で眺める。
「さっさと就職しろって………そんなこと分かってるよ」
母親、あとオヤジからの願いもあるメッセージを眺め、俺はポリポリと掻く。そう俺は専門学校を卒業後、就職活動しているのだが、(不採用続き)で今も懸命に就職活動中だ。今は適当なバイトで食いつないでいる。メッセージを見て、俺は頭が痛くなる気持ち。秋に差し迫るのか、深夜の住宅街にスズ虫の鳴き声が響かせる。
とりあえず、公園に立ち寄る。ベンチに座り、缶チューハイを空ける。深夜の公園に、カシュと缶を空ける音が響かせる。
「はぁ…………」
哀愁を漂わせながらチューハイを飲む俺。月の明かりが、沈んだ心を抱擁するように包み込む。
「こんな時に満月か………俺がこんななのに、皮肉だな」
満月の光に照らされる俺はふとボヤく。そうか、人が笑っていようが泣いていようが、楽しんでいようが苦しんでいようが。タワマンで愛人らと豪遊している奴やその繁華街の裏路地でゴミを漁って生きていようが、月はいつものように光る。
じぃ〜〜〜〜〜…………。
俺は缶チューハイを片手に、言葉を失う。そして右斜め下に視線を下らせる。
「こんばんは、おじさん」
正体はニコッと笑いかける。視線の先には袖なし白ワンピースの三つ編みの女の子。容姿は10歳前半。あとはクマのぬいぐるみを片手で抱え、持っている。
(……………)
吐き出す言葉が出てこない。
「おじさん、ホッペが真っ赤で面白い顔をしてるね?」
女の子はほろ酔い俺をクスクスと笑う。
「えっ………と、君は何をしているのかな?」
そう尋ねる。
「…………ゆみは、公園で空を眺めているの。特に夜はお星さまや月がキレイだから、こうして眺めているの」
女の子は言った。
不思議な感覚を覚える俺。何故ならこんな時間帯に女の子が一人で夜空の星を眺めているなんて、違和感でしかない。
「その、お父さんやお母さんとは一緒じゃないのか?」
俺は言ってみる。心配な様子で。
すると女の子は困った表情を浮かべ、クマのぬいぐるみを持ってベンチから立ち上がる。
「パパとママはね。お家でいつも泣いているから、夜に私が流れ星に願いを込めているの。また、あの頃のようにいつもニコニコして楽しいパパとママに戻りますようにって………」
女の子は俺の方に向かって言ってくる。
何か大変な家庭環境なんだな。と、女の子を眺める。
「しっかりしているんだね、きっと君の願いは届くと思うよ」
俺は女の子の頭を優しく撫でるしかない。
「ありがとう、おじさん」
女の子はかわいい笑顔を浮かべる。月明かりを背景に、立ち去る姿は何処かに消えるように美しかった。
後日、俺は起床する。ちなみにバイトは休みだか。いつもの部屋、家賃が4万円のアパートの部屋。女の子が帰った後、俺は適当に風に当たった後、アパートに帰った。
「あれ?………」
俺は布団の中、ある物があった。
手にするのはクマのぬいぐるみ。アレだ、女の子が大事に持っていたぬいぐるみである。(宮沢ゆみ)と名札が書いてある。
「参ったな。持って来てしまったな………」
俺はうっかり。と、頭をポリポリ。そしてテレビを点け、ニュースを見る。歯磨きをしながらテレビを見る俺。
いつものチャンネル、いつものニュース、いつものキャスターが事件や事故、不祥事などのニュースが報道する。
───次のニュースです。◯◯県◯◯市にて、信号の無い交差点で女の子を轢いて重体を負わせ、ひき逃げの容疑で70代の男性を逮捕しました。
俺はニュースを見る。
「ひき逃げか………」
歯磨きをしながらニュースを見る俺。最近、高齢者の運転する車による事故が増えている。理由は大抵、認知機能の低下により上り車線や下り車線の見分け、誤って線路や地下街に入ったり、死角にいる歩行者に気が付かなかった。とか様々だ。
───他の事を考えている時に女の子が飛び出してきたからパニックになった。女の子が動かなくなって怖くなって逃げた………。
容疑者の男性は理由を言うのである。
───ゆみを、返して欲しいです。容疑者に厳罰を願いたい。さらに法整備を………。
記者会見にて。愛娘の遺影を持った遺族が涙を流し、憤慨の様子でインタビューに答える。
(えっ?この子?)
俺は思わず目を疑い、額から汗を滴らす。何故なら遺影に写る女の子の姿、それは昨日の女の子にそっくり。それと名前は(ゆみ)。遺影の苗字は宮沢であり、交通事故にて亡くなった女の子の名前はゆみ。
俺は手に持っているクマのぬいぐるみを眺める。
さらに昨晩の出来事を思い浮かべる………。
───パパとママは、いつも泣いているからこうして夜に流れ星に願いを込めているの。また、あの頃のニコニコしていて仲良しのパパとママに戻りますようにって………。
またしても俺は、クマのぬいぐるみを眺める。ぬいぐるみは土で汚れていて、おそらく交通事故によるものだ。
───そして、山上尚(やまがみなお)は、決心して走る。
向かった場所。そこは一軒家である、俺はインターホンを鳴らす。
「何か御用ですか?」
女性が出迎える。それは何処か憔悴しきっているようで、人との関わりを避けているような感じた。何故なら女性は………。
「突然、押しかけてすいません。けど、居ても立っても居られないので………」
すると俺は例の、名札が書いてあるクマのぬいぐるみを取り出す。
「そのぬいぐるみは………事故現場で探しても見つからなかったのに。アナタ、それは何処で?」
女性は尋ねる。
「それは娘さん、ゆみちゃんから………。これ、お返しに来ました」
俺は過程をはぐらかし、クマのぬいぐるみを差し出す。
すると女性は涙を流し、感極まって頭を下げる。
「ありがとうございます。アナタに何てお礼を言ってよいか………」
すると俺は、口を開く。
「あの、娘さん。ゆみちゃんに線香を上げても良いですか?」
「はい、大切な宝物を届けて下さった恩人のアナタなら、娘も喜ぶと思います」
俺は自宅に上がり、仏壇に向かう。ギシギシと足音を木の床に響かせる。そしてフスマを開き、和室にある仏壇に差し掛かる。
仏壇にはゆみちゃんの遺影。素敵な笑顔をしている。
女性は仏壇にクマのぬいぐるみを置き、笑みを囁きかける。
「ゆみ、アナタの宝物が帰って来たわよ」
「こんにちは、ゆみちゃん」
そして俺は手を合わせ、線香を捧げる。
ありがとう、おじさん………。
「えっ?」
ゆみちゃんの声が聞こえた気がした。俺は辺りをキョロキョロと眺める。
そして女性に頭を下げ、女性に別れを告げて帰路につく。
その後ろ姿を、ゆみちゃんら手を振り、見送るのである。
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