16人が本棚に入れています
本棚に追加
「あゆみ先生がおとこの人といるところを発見してしまった…」
帰りの車内で、コタは口を尖らせて不満げに言った。
「それを言うなら発見じゃなくて遭遇だね」
「え?なになに、にーちゃん、もう一回」
「見つけたっていうより、出会ったから、発見じゃなくて遭遇だよ」
「そうぐう?」
コタは小首をかしげる。
「そう、思いもよらないところでバッタリ会うことを遭遇って言うんだよ」
僕がそう言うと、ママが「ユタ、ずいぶん難しい言葉知ってるね」と言った。
「たまたま昨日読んでいた本に出てきてさ、調べたばっかりだったから…」
「意外と勉強熱心なんだね」
「意外とは失礼だな。コタの"なに?"に何でも答えられる兄ちゃんでいたいもん」
「へぇ…」
ママは嬉しそうにニヤニヤしながら車を走らせた。
「そうぐう…そうぐう…」
コタはブツブツ新しく教えてもらった言葉をつぶやいている。
あぁ、次は「遭遇」のネタ探しが始まるな…
すっかり日が暮れた空を眺めて、僕はヤレヤレとため息をつくと、建物の間から東の地平線ギリギリのところに、大きなまんまるのお月様が見えた。
僕はそのお月様に向かって、こっそりとドヤ顔をしてみせた。
最初のコメントを投稿しよう!