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二人は一際明るい、広い部屋に入った。スーツを着た男女がわらわらと集まり、片手で数えられる程度の制服を着た若者――同期たちがいた。白い帽子を被った筋肉質な男は、二人を見て手を振った。
「おっ、最後の一人到着だなー!」
「えっ、最後?」
「佐倉課長、早いですって…そうそう、今年五人なんだよね。去年はもう少しいたんだけど。」
「去年のビリが今年のビリを連れてくるとは…面白ェ」
「ははっ、言えてるな。今の肩書きだけ見りゃ想像つかねェって。」
「えっ、えっ?」
捜査一課長・佐倉昌行は豪快に笑い、青年の肩を組んだ。他の先輩局員たちも寄ってきて、内数名はやはり青年を取り囲んだ。日色は忍び足で同期たちの列に並んだ。
「何か、不思議な感じだな…」
「あの人、俺らの一個上なんだよな…?」
「えっ」
日色は驚いた。一個上――つまり、二年目の局員相手にオジサン局員含め、通る度に皆が頭を下げていたのである。先程の状況の奇妙さを改めて実感した。呆然とする新人たちに、先輩局員の一人がある名簿を配り始めた。
「新人共ー、班分けだ。」
「ウチでは幾つか班がありまして、新人の方も何処かに所属することとなっています。同時進行させるのに便利なんです。」
「へェ…」
「ということは…あたし、この三番目の班なんですけど…何て読むんです?」
「“ガンマ”です。…日色春香さんというのは貴方ですか?私、雪野っていいます。」
「よろしくお願いします…」
可愛らしいショートヘアの女性・雪野はにこりと笑う。彼女と同じ班のようだが、日色がγと知ると周囲はざわつき始めた。
「γ…γって、ここ一年で急成長したっていうあの…」
「ああ。よりによって、あの天才・“記憶の証人”の後とは…」
「流石に同情するわ…」
「日色、オマエ強く生きろよ…」
「え?」
周りは口々に言う。わけがわからず、日色は先程の青年に目で訴えた。すると青年は先輩や上司を振り払い、「日色春香さん」と話し始めた。その表情は、何処か申し訳なさそうだ。
「ごめんね、周りが言う程じゃないんだけど…さっき嘘付いた。君の“記憶”を見せてもらったんだ。勘が良いわけじゃないんだ。」
「…え?」
「おっ、もう使ったのかー?」
「ああ、さっき名乗ってなかったね。…初めまして、僕は古市悟史。γの一級局員だよ。」
「そうそう、古市はγだけじゃなく、捜査一課のエースだ。四ヶ月目で一級になった超エリートで、能力者だ。」
「…え…ええーっ!?」
日色が先程ぶつかり、此処に連れてきてくれた青年――古市は、捜査一課の誇るエースであった。それも、彼は「“記憶”を見る能力」の持ち主である。この後、日色はすぐに知るとなる。古市の凄さを。何故、彼は“記憶の証人”と呼ばれているのかを。
「早速だが、日色。いつ事件が起こるか分からないし、そろそろスーツに着替えてくれ。」
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