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Episode.1
西暦2254年、4月。社会治安維持局本部地下にある大ホールでは、新入局員たちがずらりと整列し、式典に出席していた。
(ああ―っ、緊張するなァ…お腹も空いてきたし…)
密かに空腹を感じているこの女、日色春香もその一人であった。ボサボサ頭を無理やり二つに結び、ぴっちりと制服を着込んだ彼女は、これが通常運転だ。怠惰な所はあるが、重要な場面でだけは慎重になる。それが、彼女のやり方であった。
「――では早速、各々の部署へと移動してください。解散ッ」
(やーっと終わったァ!早速移動を…あー、ここまで長かった…!夢の捜査一課…刑事ドラマでもよく見るし、ずっと憧れだったんだよな―。)
日色の配属先は刑事部捜査一課であった。捜査一課は一般人でも多くの人が知る、凶悪事件を担当する部署である。浮かれながらホールを出る新田に、声をかける者がいた。
「おっ、ハルー。迷わない?大丈夫そ?」
「ユリ…うん、何とか。百合は捜査二課だっけ?」
「全然ちがーう。私は四課。ヤクザとかそっちの方。アンタ一課でしょ?」
「まあね。ちょっと怖いけど、そっちと比べればマシか。憧れだったし」
「花形だからね〜」
ユリ、と呼ばれた女性――有川百合子が、日色の肩に手を回した。二人は中等学校時代からの親友なのである。別の課ではあるが、有川もまた刑事部に配属された一人である。方向音痴のきらいがある日村のため、彼女は共に行ってくれるとのことだ。
地下を出て、階段を上っていき、やがて5階――彼女たちの部署のあるフロアに到着した。エレベーターホールで親友と別れ、日色は地図を手に進んでいく。余談だが、日色は自分が方向音痴である自覚が皆無である。
「えーと、捜査一課は…非常階段に近い奥の部屋か。右に行って、それから――ひゃあっ!?」
「わっ!」
角を曲がろうとして、日色は誰かとぶつかった。相手は小柄だが、どうやら男らしい。白い手袋が一つ、床に落ちる。それを拾おうとして、男の手とぶつかった。
「ごっ、ごめんなさい!」
「すみません、こっちこそ――あれ、もしかして君新入局員?それも、捜査一課の…」
「ああ、はい。そうなんです…」
「ちょうど良かった!迷子になりやすい子がいるから迎えに行けと課長が…捜査一課はこっちだよ、着いてきて。」
「ッ、はい!」
右目の火傷痕が印象的な、若そうな男だ。歳の近い先輩だろうか――そんな事を考えながら、日色は青年に着いていった。
二人は廊下をすいすいと進んでいくが、道中すれ違う局員たちが皆道を空けてくれた。それどころか、ペコペコとお辞儀をしている。目の前の彼だって、若そうなのに。
(他の局員の人たち、皆この人に譲ってる?というか、あたし捜査一課とは言ってないような…先輩っぽいけど、この人何者なの…?)
「あの、あたし捜査一課って言いましたっけ?」
「え?…あ、ごめんねいきなり!僕人より勘が鋭くてさ、何か分かっちゃうんだよね。」
「へェ、凄いですね!」
「ほら、もうすぐそこだよ。今年は人数少ないんだ。」
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