4.悪夢③

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4.悪夢③

 その夜、二人は互いに背を向け合い、眠った。  そして、ドアがノックされた。  バスタオルを裸体に巻いて彩花はベッドを降りる。 隣にいる筈の夏人の姿がない。また買物に出て、今度こそロックアウトされたのだろう。 「今開けるね」  彩花はノブを回し、ドアを開けた。  確か夏人は手ぶらだ。買い物に出て、財布を忘れたことに気づいて戻ってきたのだろうか。  いや、そこにいる夏人は口角をねじ上げ、血走った目にライトを反射させている。 「どうしたの?」  ズボンの中でペニスを屹立させ、あの白人のようにニヤニヤと笑いながら彩花に迫った。 「ねえ……どうしちゃったのよ……」  後ずさる彩花の問いに夏人は答えない。ただ、狂気を伴い距離を詰める。 「夏人君……変だよ……どうしたの……」 「うるせえ!」  いきなり前蹴りが飛び、彩花の腹を捉えた。彩花はベッドに飛ばされ、壁に頭をぶつけた。視界に火花が散り、腹を抱えて呻きをあげる。何が起きたのか理解できないまま、ただただ怯え、震えた。そんな彩花の髪を夏人はつかみ、頭部を壁に打ちつけた。 「見やがったな」  殺される……。  朦朧とする意識の中で、唯一、そのことだけが思い浮かんだ。  夏人は彩花のブラウスを引きちぎった。ボタンが飛び、床に転がる。ブラジャーを剥ぎ取り、ジーンズを脱がせ、ショーツを引きちぎる。彩花を裏返し、どこで用意したのかロープを使って両手を背中で縛り上げる。頭をベッドに押しつけ、背後から腰を持ち上げる。 〈……殺害された三人の女性は後ろ手に縛られた状態で、性器もしくは異物を挿入されたらしく肛門が無惨に裂けていた……〉  熱いものがアナルに触れた。 「違うよ……そこじゃない……」  泣きながら彩花は訴えた。  骨盤を両手で支え、じわじわと浸入してきた。 「ダメだよ……そこじゃないんだから……」  涙がシーツに染み込んでいく。 「ああっ……痛い!……あああっ!」  強引に挿入された肛門が裂け、鮮血が白い腿をつたっていく。激痛が駆け抜け、彩花は泣き叫んだ。夏人は腰を動かし始めた。鮮血が潤滑剤となり、ペニスはなめらかに肛門を前後した。  半ば放心状態で彩香は喘ぎ続けた。動きは速くなり、裂け目はどんどん広がっていく。  次第に、痛みの奧から、得体の知れない感覚が遡ってきた。  それが快楽の別の顔なのだと、犯されながら彩香は理解し始めた。 「ダメ……いっちゃうよ……ダメなんだって……こんなふうに……イキたくないっ……」  涙と唾液で彩花の顔はぐちゃぐちゃになっていた。夏人は激しく突き、動き、ついに雄叫びをあげる。 「ウォォォーッ!」  熱いものが放たれ、彩花は全身を痙攣させ、果てた。ぴくぴくと痙攣する裸体を包むように優しい声が聞こえた。 「大丈夫?」  それは、紛れもなく夏人の声だった。 〈……え?〉 「うなされていたみたいだけど……」  夏人が不安げに覗き込んでいる。彩花は反射的に逃げようとした。 「どうしたの?」 Tシャツの細い肩を夏人が捕まえた。 「いや、放して!」 「彩花!」  荒い呼吸が徐々に落ち着いていく。 「夏人君……」  彩花は深呼吸した。 「……ごめん、変な夢を見たらしい」 「疲れたんだよ」  夏人は微笑んだ。 (こんなにも優しい人なのに……)  その胸に顔を埋め、彩花は泣いた。 「……ごめんなさい」 「どうしたの?」  泣きながら首を振る 「ねえ……」 「ん?」  じっと、夏人の目を見つめる。 「……して」  夏人はTシャツを脱いだ。 ベッドサイドの明かりに、夏人の筋肉が影をつくる。その腕で彩花のTシャツを脱がせると、うっすらと乳房の産毛が光った。夏人は下着を脱ぎ、彩花のショーツを下ろす。唇を合わせ、首筋から乳房へと舌を這わせる。さらに腹、恥丘、内股、ふくらはぎも愛撫し、ついに足の指を口に含む。  足の指のひとつひとつを丹念にしゃぶられて彩花は歓びに酔い、溢れた蜜を夏人は啜った。 「きて……」  どんな鳥よりも美しい声で彩花は啼いた。夏人は存分に彩花を貫き、彩花は全身で犯された。互いの生命が密着し、ひとつの行為を創り上げる。密着した肌と肌は溶け合い、もう離れることなど想像すらできないほどであった。 「ああっ……出ちゃうよ……」 「うん」 「もう……だめそう」 「うん、きて」 「でも……」 「お願い、中に出して!」  彩花の両手は夏人の腰をつかみ、放さなかった。  激しく腰を振り、夏人を絶頂へと誘う。 「……あたしもイク!」  互いの背中に互いの爪を立て、赤い筋が浮く。 「うん……一緒に……」  産まれて初めて、彩花はそれを受け入れた。 「……なんだか、いっぱい出ちゃったみたい」  夏人が笑った。 「うん。もらっちゃった……」  彩花も笑った。  とてつもない安堵に包まれ、それまでの人生で最も幸せな時間を彩花は味わった。それを、夏人の言葉が断ち切った。 「見たんだね?」  彩花は無言で頷いた。
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