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悲しさ以上にショックの方が大きくて、涙も出てこない。
胸にぽっかりと穴が空いたようだ。
家に帰る気にもなれず、あてもないままゾンビのようにフラフラと歩いた。
最高の誕生日になるはずが、まさかの別れを切り出されるなんて、最悪も最悪だ。
何もかもが嫌。のほほんと歩いている人を、呪いたくなるほどだ。
うつむいたまま、トボトボと人気のない道を進んでいく。
すると、そのひっそりとした道の角に、猫型のお地蔵様がひっそりと建っていた。
「こんなところに、お地蔵様……?」
この道は何度か通ったことがあるけれど、今まで気がつかなかったな。下を向いて歩かなければ目に留まらないぐらい、小さなサイズだからかも。
力なく座りこみ、発見した猫地蔵様にぼーっと見入る。
「猫は、いいなぁ。のんきそうに喉を鳴らして、なんの悩みもなさそうだもの」
独り言のつもりだった。
誰に届けるつもりもない、つまらないボヤき。
「それならば、あなたを猫にしてあげましょう」
それなのに、目の前の猫地蔵様が急に喋り出したものだから、耳を疑った。
あれ。
私、樹に振られたショックで、頭までおかしくなっちゃった?
「にゃあん」
えっ⁉
今度は、自分の口から飛び出た、本物の猫のような鳴き声に戸惑った。
しかも、視界までヘンな感じだ。それまでくっきりと鮮明に見えていた世界が、一気に霞がかったようになってボヤけていた。
さっきまで見下ろしていた猫地蔵様とも、ほとんど同じ目線になっていて……なんだろう、ものすごく嫌な予感しかしない。
恐る恐る、自分の手を差しだす。
ふわふわの白い毛に包まれた、かわいらしい肉球。
どうやら私は、本当に、猫になってしまったらしかった。
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