彼氏に振られ、猫になった

3/6
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 悲しさ以上にショックの方が大きくて、涙も出てこない。  胸にぽっかりと穴が空いたようだ。  家に帰る気にもなれず、あてもないままゾンビのようにフラフラと歩いた。  最高の誕生日になるはずが、まさかの別れを切り出されるなんて、最悪も最悪だ。  何もかもが嫌。のほほんと歩いている人を、呪いたくなるほどだ。  うつむいたまま、トボトボと人気のない道を進んでいく。   すると、そのひっそりとした道の角に、猫型のお地蔵様がひっそりと建っていた。 「こんなところに、お地蔵様……?」  この道は何度か通ったことがあるけれど、今まで気がつかなかったな。下を向いて歩かなければ目に留まらないぐらい、小さなサイズだからかも。  力なく座りこみ、発見した猫地蔵様にぼーっと見入る。 「猫は、いいなぁ。のんきそうに喉を鳴らして、なんの悩みもなさそうだもの」  独り言のつもりだった。  誰に届けるつもりもない、つまらないボヤき。 「それならば、あなたを猫にしてあげましょう」  それなのに、目の前の猫地蔵様が急に喋り出したものだから、耳を疑った。  あれ。  私、樹に振られたショックで、頭までおかしくなっちゃった? 「にゃあん」  えっ⁉  今度は、自分の口から飛び出た、本物の猫のような鳴き声に戸惑った。  しかも、視界までヘンな感じだ。それまでくっきりと鮮明に見えていた世界が、一気に霞がかったようになってボヤけていた。  さっきまで見下ろしていた猫地蔵様とも、ほとんど同じ目線になっていて……なんだろう、ものすごく嫌な予感しかしない。  恐る恐る、自分の手を差しだす。  ふわふわの白い毛に包まれた、かわいらしい肉球。  どうやら私は、本当に、猫になってしまったらしかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!