月夜の詩

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千影は思わず大声を上げていた。 声に気付いた少年が静かに近づいてくる。 後には引けずに立ちはだかる千影は恐怖で硬直しながらも 弟たちの教材を返してもらうという強い意志の元 ぐっと目に力を入れて睨みつけた。 暗い軒から門灯にゆっくり晒されて現れたのは 目を疑うような美少年だった。 その少年は静かに近づき 想像以上に近い位置まで来るとぴたりと止まって 整った顔を崩す事なく千影を見据えた。 千影はどうやって息をしたらいいのかわからなくなるほど 息が詰まって、心臓は握り潰されそうなほど締め上げられていた。 軋む心臓を掴むように胸元のシャツをギュッと握り締め千影は言った。 「・・・か・えし・・て」 少年は不思議そうにゆっくり首を右に側に倒した。 千影は真っ直ぐに人差し指を突き出し 遠く広げられてた教材に向かって指差した。 すると、少年は理解したようで 慌てることもなく教材をかき集めると千影に渡した。 こんなに素直に応じるとは・・ 二人はそのまま時が止まったように立ち尽くした。 「私は、千影。・・・あなたは?」 すると、少年は困ったような顔をして ゆっくり頭を左右に振った。 「・・名前・よ? わからないの?」 少年は(わず)かに首を(かし)げたまま 千影の様子をじっと伺っている。 千影はなんか変だな、と感じた。
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