月夜の詩

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千影は数歩下がると辺りをゆっくりと見渡した。 手入れの行き届いた庭から何もない部屋が見える。 きっと、一人で住んでいる。 「一人で住んでるの?」 千影の問いに興味はありそうだったが 理解はできていなさそうだった。 年齢は千影と同じくらいに見えたが 言葉がわからないように見えた。 「な・ま・え・・・わかる? わ・た・し・は・ち・か・げ」 少年はさくらんぼのように艶やかで綺麗な色をした唇を少しだけ動かした。 その唇になぜか、心臓がギュッと押しつぶされたようになる。 千影は軽く息を吐き出すとさらに一歩下がった。 すると、すぐそこに看板があることに気付いた。 この家のものなのか・・ 少年が持ってきたものなのかわからなかったが 『(おぼろ)』と刻まれていた。 千影は両手に抱えた教材を鞄にしまうと 再び少年の元に歩み寄った。 そして、スッと少年の両肩に手を置くと 「お・ぼ・ろ」 ゆっくりと言葉を発し少年を見つめた。 「今日からあなたの名前は朧よ。」 そう言って肩を掴む手に少し力を入れた。 すると、少年はびっくりするほど美しい顔で笑った。 千影は思わず息を飲むと 本日何回目かの心臓がギュっとなって胸元のシャツを手繰り寄せた。 固くまぶたを閉じて一度息を吸うと ふっと吐いた。 静かにまぶたを開くと真っ直ぐ瞳を向け 「朧、よろしくね!」 そう言って、笑った。
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