月夜の詩

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その日から、千影は朧に毎日のように会いに行った。 そして、言葉を教えた。 ものには名前があることを知った朧は とても楽しそうでなんでも知りたがった。 庭に出ると、大きく古い柿の木が オレンジ色のツヤツヤな実をつけている。 朧は柿を指さして名前を知りたがった。 「か・き」 千影がそう教えると 朧は嬉しそうに笑い一番綺麗な柿をもいで千影に渡した。 「くれるの? ありがとう」 一口食べると、甘くて美味しくて思わず笑っていたのだろう。 朧も自分の分を枝からもいで食べるとニコッと笑った。 「おいしいね」 と、千影は自分のほっぺをぷにぷにと触った。 すると、朧もうんうんと大きく頷くと 千影のほっぺをぷにぷにと触った。 瞬きほどの時が止まったあと 二人は幸せそうに見つめ合って 秋の風が鈴の音を鳴らしたようにコロコロと笑った。 と、その時 ガサガサっと不自然な音がした。 音の方を咄嗟に見るとそこには同級生たちがいた。 千影がここまで来ている事が噂になり気になってつけてきたようだ。 同級生たちはバツが悪そうに現れるとへへっと笑った。 千影の隣で静かに微笑む少年はたちまちみんなを魅了し 一人で森に住んでいると聞いた大人たちは街の学校に通わせてくれると言った。 朧の年齢は千影たちと同じくらいに見えたが 千影の弟たちと小学校に通う事になった。 楽しそうに言葉を学ぶ朧だったが 未だに朧の声を聴いたものはいなかった。
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