月夜の詩

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言葉こそ発しなかったが 朧は一つ一つ言葉を覚え、本も読めるようになっていた。 いつもいつも、千影にくっついていて 千影だけがもらえる笑顔を欲しがる人は増す一方だった。 いつしか時は流れ、誰も気付かないうちに 少しずつ朧にも友達ができていた。 朧が言葉を発せずとも 優しくて、笑顔が美しい朧の周りには いつしか人が集まるようになっていた。 ある日、千影は一人だった。 向こう側に友達と笑っている朧が見える。 少しずつ時間が合わなくなり 話題も少しずつずれてきて・・ 千影は気がつくとふらふらと あの道に向かって歩いていた。 辺りはいつの間にか暗くなっている。 見上げると綺麗な月が光っていた。 「月夜だ」 知らず知らずのうちに千影は微笑んでいた。 朧のような凜とした月が 優しく光っている・・あの日のように・・ その瞬間、千影から表情が消えた。 「寂しいのは私のエゴだ。」
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