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「知って…たの?!」
ゆりえは突然の紫乃の言葉に驚いて硬直すると、紫乃は頷いて苦笑している。
「…分かるよ。夜の仕事なんて、水商売か風俗だもん。お姉ちゃんが居酒屋で働いてるとは思えないし。スマホ、前に見ちゃった」
「…見たの?!パスワードは…」
「お姉ちゃんがパスワードにしそうな番号なんて、すぐ分かるよ。昔から大体同じだし」
「だからって…!」
「風俗やってたんなら、名取さんと付き合わなくたって、男、たくさんいるでしょ?」
紫乃は口紅を紅筆でなぞり、唇にゆっくり塗って、目線だけをゆりえに向けて睨みを利かせている。
「風俗なんて、最低!信じらんないよ!」
「か、彼は…そんなこと気にもしないでくれる。そう努力してくれる人よ。それに、迅は全部受け止めてくれる人だってこと、あなたが一番分かってるんじゃないの?紫乃」
ゆりえは少し声を震わせたが、身を乗り出して言うと、紫乃は辛そうに目を伏せて俯き、
「そうよ。知ってる。だから私、好きなんだもん!だから私は一生許さない。お姉ちゃんも、…名取さんも!」
と一言冷たい言葉を浴びせると、ダイニングテーブルに置いていたハンドバッグを取って、小走りで飛び出していった。ゆりえは風俗で働いていることがバレて、紫乃を呼び止める力もなかったけれど、紫乃がまだ迅を好きでいることを知って胸がチクチクと痛んで泣きたくなってしまった。同時に過去のことも思い返している。
昔、彼氏を取られた時…。
あの時も、スマホを覗かれたのかもしれない。
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